本日は【学術書13】で解放されるアーカイブストーリー「アーカム邸」のお話になります。
アーカム邸「アーカイブショートムービー」
物語と一緒に解放された、「アーカム邸」のショートムービーになります。こちらも合わせてご覧ください。
”学術書13「アーカム邸」
映画の日記。血と羽
地下にある奇妙な装置の近くに、突然1羽の鶏が現れた。塔を駆け回って追いかけ、ついにエレインが鶏を捕まえた。エレインは鶏の足を掴むと、部屋が血と羽だらけになり、悲痛な鳴き声が響き渡るまで、その鶏を石の床めがけて打ち続けた。
エレインは、自分が突然理性を失ってしまったことに少々狼狽しているようだった。我々皆も同じだった。手にちぎれた鶏の脚を持ったまま、自分は通常はかなり我慢強く、理性を失うことなどないと、エレインは繰り返し呟いている。
突然、そして一時的に自分を乗っ取った感情をどうしても理解できないのだ。我々は飛び散った鶏の破片を集め、美味しい食事に変容させながら、可哀想なエレインを慰めた。映画ではちょっとした息抜きの良いシーンとなるだろう。
映画の日記。いつまでも忘れない
エレインフェアフィールドは、木村アーマとパク夫妻との出会いを話してくれた。行方不明になった家族や大事な人を探すために形成されたグループで出会ったらしい。そのグループを作ったのは行方不明になった妹を探す男で、奇妙ながらも似通った失踪事件を捜査していた。その兄の調査により、グループは最終的にこの宇宙的な地獄に入り込んだわけだが、途中ではぐれたようだ。
エレインは説明もできないような生き物に襲われたと言っている。その生き物はすべての場所に存在しつつ、同時にどこにも存在しないようだったらしい。
私には彼女の言っている意味が分からなかった。それが何であれ、彼らが私を見つけて、罠から解放してくれたことに感謝している。グループが離れ離れになってしまう前に、その兄がパク氏に調査を任せたことにも感謝している。その中に元の世界に戻れる手がかりがあればいいのだが・・・そうでなければ、エレインが鶏にしたような行為を、そのうちに我々が互いにし合うかもしれない。
ところで、ヤスミン・カッシルは鶏の一件を面白いと思わなかった。さらに映画のシーンに相応しいとも思わないらしい。私が狙っているターゲット層に彼女があてはまるかどうかは疑問である。
ジェイクへ
日記を目の前にして座っているが、何を書けばよいのか分からない。君のために霧の中で捜索を続けたいが、ブリジットは休憩する必要があると感じているようだし、この塔の以前の居住者から多くの情報が得られると思っているようだ。
現在、私ができることは流れに乗り、行方不明になった人々に近づける手がかりを見つけることを願うことぐらいだろう。私たちは数人で集まって書斎の小さな暖炉を囲み、百回は聞いたであろう大事な人の話を、あたかも初めて聞くかのように話した。おそらく、話をして笑い、楽しかった頃を思い出すことが気持ちの助けになるからだろう。
アーマは娘がバイクのエンジンを作ったことを話した。スクーターを改良して、小さな村の中でレースをしたらしい。今回は、以前話してくれた時よりも尾ひれがついていた。飛行機の部品で改造や改良をしたとしても、スクーターでそこまでのスピードを出すことはできないだろう。だとしても、話としては面白いし、上手に話してくれた。ところが突然アーマは黙り込み、空虚な目で火を見つめ、思い出に浸ってしまった。長い間、誰も何も言わなかった。
私は飛び散る火の粉を見つめながら、君が初めて自転車に乗ることを覚えたときの様子を思い浮かべた。君は4歳で、私が最初に教えたのは転び方だった。足で押して、左側か右側に安全に転ぶように教えたのを覚えている。転ぶことに対する恐怖がなくなるまで、その方法を練習したね。そして、速くペダルをこいで、スピードを利用してバランスを取る方法を教えた。初めて試した時に成功したのは、転ぶことに対する恐怖がなかったからだろう。君はとても喜んで、自転車からジャンプして下り、私を抱きしめて、世界一のお父さんだと言ってくれた。
今日死んで、この瞬間を永遠に生きるとしたら、私は幸せな人間だと思うよ。君に会いたいと心から思っている。私たちの間に起きたことを憎んでも憎みきれない。あと1回でいいから、もう一度状況を修復する機会があればいいのに…
血の小部屋。夜の日。ジェイデン。1。
23歳のジェイデンは廃墟と化したモーテルの入り口に近づくにつれて、霧の中を歩み進めた。額の冷たい汗を拭い、キィーと音のする扉を開けて、暗いロビーに足を踏み入れる。
陰鬱な死の現場を目の当たりにして、ジェイデンの心はすぐに沈んだ。床には人間の死体や、今までに見たこともないようなイカのような生物の腐敗した残骸が散らばっている。ひと呼吸おいて、気持ちを落ち着けようと努めた。
痣だらけの彼の顔、腫れた足、ボロボロになった服を見ると、この暗い次元で養子である妹ヘイリーを探す旅がどれほど長く過酷であったかが分かる。故郷で彼は、自分と似たような状況の人々と繋がった。大切な人が行方知れずになった他の人々と一緒に、秘密のシンボルを有する遺物とアーティファクトを集め、最終的に悪夢で構成されたこの世界に続くポータルを開いたのである。
しかし、この悪夢の世界に入り込んで間もなく、闇を貪欲に食らう暗がりに生きるものに襲われ、グループは散り散りになってしまった。
今、ジェイデンは独りだ。調査資料がなくては何人かは「古写本」と呼ぶようになっていた、妹を見つけたとしても、どうやって脱出すればいいのか分からなかった。
しかし、その厳しい状況に関しては考えないようにした。ロビーに入ると、誰かに見られているような気がした。ここに来る前、少し離れたところで、パターゴルフ一面に骸骨が散らばっている塔の遺跡を見つけていた。そこでは、プツプツと音を立てる蓄音機から、古いフランスの曲が流れていた。
今は、死した生き物の腐敗臭のする、廃墟と化したモーテルにたたずんでいる。ジェイデンは何を予期すべきか分からなかったが、ひとつだけ確信が持てた。霧の中には、さらに恐ろしい生き物や謎の遺跡が存在するだろう。それも、もっと大量に。この世界に関して発見したことすべてが、ここは時空を超えた無限の闇の庭であることを示唆している。死に救済はない以前、目にしたことのある言葉だ。
ジェイデンは、空気を切るような静けさに包まれた廊下を注意深く歩くと、震えた手を扉にかけた。扉の上には、出口の誘導灯が点滅している。ここで生きているものと言えば、犬ほどの大きさのネズミで、肥大化したイカのような生き物の腐敗した肉をかじっている。山積みになった死体を通り過ぎると、その瞬間に自分の後ろに何かがいる気配を感じた。振り向くと、突然何かが光った。その直後に、ギラリと光る刀の刃が目に入った。ジェイデンは息をのむと、赤と黒の着物を着ている女に気づいた。女は、ヘイリーが集めていた18世紀に日本の無名の作家によって書かれた物語の主人公を思い起こさせた。
「咲、待ってくれ!」
スリンの声だとすぐに分かり、ジェイデンの心臓の鼓動が高鳴った。振り向くと、数名の生存者の集団の中に見慣れた顔を見つけた。オリビア、ショーン、イライアス。見慣れた顔の先には、血の付いた戦闘服を着て、セミオートマチックライフルを肩にかけまた、疎遠になっているヘイリーの叔父マハンの顔が見えた気がした。
スリンは切羽詰まって、隣の女のほうを向いた。「アリエラさん」スリンは言った。「咲に彼は知り合いで、名前がジェイデンであることを伝えてください。ポータルを通って一緒にやってきたのですが、途中ではぐれてしまったんです。この場所・・・ここには、彼の妹さんがいるんです」アリエラは頷くと、咲の手首に優しく手を添え、スリンの言葉を日本語に訳した。すぐに咲は理解したといった様子で頷くと、刀を下げた。
ジェイデンがほっと胸をなで下ろすと、スリンがライフルと錆びたマチェットを投げてきた。その後、スリンがグループの新メンバーにジェイデンを紹介し、霧からの次の攻撃に備えるように言った。その直後、皆は手分けをしてモーテルにバリケードを設置し、強化した。
映画の日記。エントリー89。
今朝早くから書き始めた。2ページ完了だ。いろいろな方法で楽しめる鶏のエピソードを中心に書いた。ヤスミンとは今夜話をするつもりだ。そのため、血の小部屋から選んだ物語をエレインが読む朗読会には、おそらく出られないだろう。奇妙なハロウィン。エレインはこの物語が、ここと似たような場所を舞台にしていると言っている。
血の小部屋。失われ、忘れられしもの。
どこか遠くから聞こえた爆発の残響により、5人の囚人が、小さく、泥だらけで害虫だらけの地下牢で目覚めた。顎鬚を生やした囚人は身体を起こすと、扉の横の石に刻まれたいくつかの名前を見つめた。そこには、こう書かれている。
アマール・シン1914年
アダマ・コンバ1915年
オマールハリミ1916年
アムリック19917年
ルップ1917年
囚人は突然、自分の名前を刻み込む衝動に襲われた。忘れ去られないためにである。彼は小さな尖った石を掴み、名前を刻もうとした。するとその時、ぶ厚い木製扉がいきなり開いて敵の兵士が流れ込んできて、5人の囚人に向かって彼らのうち誰も理解できない言語で悪態をつき、ギラリと光る銃剣で脅した。
敵の兵士は彼らの立つように身振りで示すと、5人の囚人を暗闇から、泥だらけで死臭のする2メートルに満たない塹壕の中を夜明けの黄金の太陽に向かって連れていった。空き地に向かって囚人が足を引きずるなか、1人の兵士が片言の英語で彼らに話しかけた。隊長の手伝いをすれば、早朝の射撃訓練を避けられるかもしれない、と。
5人の囚人は塹壕の壁に並ばされ、敵の兵士は空き缶を彼らの頭に乗せた。通訳が隊長とともに近づいてきた。隊長が話すと、通訳が内容を素早く通訳した。「お前らのうちの誰かに、秘密の任務を明かしてもらう。話したら、きちんとしたキャンプに送り、そこでは食事と迅速な医療が提供されると約束するぞ」
5人のうちいずれの囚人も返事をしなかった。隊長はニヤリと笑い、20歩手前に戻ると、ライフルの撃鉄を引いて弾を込めると、囚人の額を狙って撃った。囚人の頭蓋骨は二つに割れ、他の4人に血しぶきがかかった。隊長は囚人を注視し、少しためらった後、再度ライフルに弾を込めた。突然の大きな音。直後に、囚人がもう一人倒れた。隊長はふざけてライフルの腕の悪さを謝った。
隊長は笑いながらライフルで狙いを定め、引き金を引いた。空き缶に当たる。空き缶は塹壕の砂袋に当たって落ちると、瓦礫に当たってカタカタと音を立てた。隊長は再びライフルの準備をすると、次の囚人に狙いを定めた。
囚人はライフルを見つめると、目を閉じ、ラテン語に似たような不明な言語で同じフレーズを繰り返した。そして、隊長が引き金を引こうとした時、突然、突き刺すような笛の音が全員の注意を引いた。隊長が上を見上げたころには時すでに遅しで、18ポンド砲によって肉片と骨片に成り果てていた。
顎鬚を生やした囚人は地面を這って、瓦礫の山の下から突き出ている震える手に向かっていった。くぐもった叫び声と爆発音が聞こえる中、囚人は土と瓦礫を必死で掘っている。肩で激しく息をしながら、顔の半分が見え、もう半分も見えた。そして、震える脚で立ち上がると、一人の囚人の制服を掴み、引き寄せた。二人でもう一人の囚人を瓦礫の山から引きずり出して、ひと呼吸おいた。足を引きずり咳をしながら、地面にあるライフルを掴むと急いで梯子まで移動し、塹壕を越えて殺風景な荒れ地に出た。
腐敗している馬の死骸を飛び越え、逃げる囚人の周りで銃弾が泥に当たり音を立てる。と同時に、巨大なクレーターに落ちた。死体やネズミを飛び越え、ハエの大群をかき分けながら必死で這い上がろうとしていると、突然、焼け焦げた木の残骸に有刺鉄線が張り巡らされた迷路に入り込んだ。迷路を進むと、再び何もない場所に出たので、後ろを見ずにそのまま全速力で走った。
すると空からエンジン音が聞こえた。
見上げると、飛行機が目に入る。囚人の一人は凍りつき、飛行機が近づくなかライフルを掴むと、飛行機を狙った。息を止めて、引き金を引いた。銃弾が空を切ると同時に、大きなカラスの群れが死体から飛び立った。
外れたのだ。
囚人は再び撃鉄を引き、気持ちを落ち着かせると、絶好なタイミングを待ち、引き金を引く。銃弾はヒュッと音をさせて空を切り、今回は真っすぐ、パイロットの冷淡な顔に当たった。
その直後、飛行機の機首が上がり、荒々しく暴走して回転した。
飛行機が追っ手に墜落し、押しつぶして切断し、渦巻く火の玉となり焼き尽くす様子に、囚人たちは信じられない思いで目を見張った。
身の毛もよだつような場面を理解すると同時に、世界が激しく振動したように感じ、囚人たちの立っていた地面が突然、消え去った。3人の囚人は腕をバタバタさせながら、埃、すす、有刺鉄線に覆われた状態で巨大な陥没穴に落ちていった。
騒ぎが収まると、3人の囚人は周りを見渡した。どうやら、奇妙な黒い霧に覆われた古代の寺院にいるようだ。周りの壁には古代のシンボルが刻まれている。彼らは任務で見つけるようにと言われていた、失われた寺院を、敵の秘密部隊が見つける前に偶然にも発見したのだ。この寺院は世界中の超自然的な知識を安全に隠すために建設されたという。彼らに残された任務は、この発見を新しく結成された調査部に報告するだけである。
そのため、囚人たちは必死に寺院から這い上がると、見慣れた、それでいて見慣れていない領域にたどり着いた。殺風景な死体がゴロゴロと転がった景色は無人地帯のようだが、その光景には、何か奇妙な点があった。周りには迷路のような、焼け焦げた木と有刺鉄線でできた壁があり、死体がフックで吊るされ、狩猟月の下、赤く輝いている。囚人はいずれも、死体とフックを混乱したような面持ちで見つめ、ここに来たことがあっただろうかと考えている。
突然聞こえてきたチェーンソーの高音に驚いた囚人たちは、本能的に燃える戦車の横に隠れた。うねり立つ黒い霧の雲が近づいてくると、ここ3年間で慣れるようになった地獄とは何かが違うということを悟った。
彼らは、隠れされた寺院で、どういうわけか時の中に失われ、忘れられし何かを発見してしまったことに気づいた。それとも、この失われ、忘れられし何かがどうにかして彼らを見つけ出し、この古代のものが―それが何であれーすでに酷かった状況を、さらに最悪なものと変えてしまったのだろうか?
血の小部屋。ストラテジック・マジックのオフィス
メモ:スタンパー博士に関して。スタンパーがサブプロジェクト774を先導することに関して懸念を持っている。ストンパーは群衆の発現の根拠を公然と嘲笑い、コミュニティに対する提案も皮肉とまではいかないまでも、懐疑的な雰囲気を漂わせている。部署を疑い続けているし、政府にはそのような実験を行う資源がないと思っているようだ。どこから資金が来ているのかを知りたがり、いろいろと詮索し過ぎるきらいがある。私はストンパーを、群衆構想を先導する適切な候補者ではないと考える。