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【DbD】アーカム邸のアーカイブストーリー「赤鶴物語」【学術書14】

【学術書14】アーカム邸のアーカイブストーリー「赤鶴物語」

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きまぐれ

学術書14で解放されるアーカイブストーリー「赤鶴物語」のご紹介です。

 

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こんにちわ。きまぐれです。当ブログでは、DbD(デッドバイデイライト)に関する情報を分かりやすく発信してます。ぜひ参考にしてください。

 

アーカム邸のアーカイブショートムービー「赤鶴物語」


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物語と一緒に解放された、「赤鶴物語」のショートムービーになります。こちらも合わせてご覧ください。

赤鶴物語-1。

おかしなことに咲は自分が年を取っていないことに気づいた。途方に暮れるほどの長い間、敵を探しながら多界を旅してきたのに、咲は少しも年を取ったようには感じなかった。わからないことは他にもたくさんあった。他の世界やその住民たち、そして彼ら特有の文化や言語を学び、異なる世界についてたくさんのことを知るようになったのに、「多界」についてはほとんど何も知らなかった。咲は遠い昔に黒蛇の門弟を追っている間に霧にまかれ、気がつくとこの場所に入り込んでいた。闇と謎に包まれ、悪夢が蔓延る場所だ。咲は21人の門弟のうち、12人を見つけて殺した。残るは9人。しかし、咲は焦ってはいなかった。そのうちに彼らの首はいただく。彼女はどういうわけか時間を味方につけていた。

 

咲は今、足元を照らす棒状の青い光に沿って、トンネルの線路上を歩いていた。その暗いトンネルのコンクリートの壁は落書きでいっぱいだ。眩しい光が近づいてくるのを見た彼女は、さっとその足を止めた。そして素早く線路から飛び出し、線路わきの高くなった部分に飛び乗った。次の瞬間、大量の死体を乗せた列車が彼女の横をものすごいスピードで駆け抜け、腐った体の悪臭を残していった。

 

列車が通り過ぎると、咲は線路上に飛び降り、青い光に沿って再び闇の中を進んだ。周囲の霧はだんだん濃くなり、遠くからカラスの鳴く声が聞こえてきた。咲は無意識に刀の柄を掴んだ。気がつくと赤く目を光らせ、歯を腐らせた人食いたちに囲まれていた。

 

人食いたちは彼女にゆっくりと近寄り、恐ろしい金切り声を上げながら彼女に襲い掛かった。咲はその攻撃をかわしながら、後ずさった。そして人食いたちが再び攻撃してきたとき、咲は刀を抜いて周囲に血の嵐を起こした。

 

咲はまるで雑草を刈るかのように、またたく間に人食いの群れを切り倒した。血の嵐がおさまった後には、20体の人食いたちが横たわっていた。咲は刀を拭うと、振り返りもせずにまた線路上を歩き始めた。トンネルにはカラスたちが切り立ての肉を貪る音が響き渡っていた。

 

咲は注意深く、線路に沿って足を進めた。すると、どこからか助けを求める声が聞こえてきた。聞き覚えのある声ではなかった。その声は、まるで彼女の頭の中で響き渡るかのように、あらゆる方向から聞こえてきた。

 

咲は何度も辺りを見回したが、そこには誰もいなかった。咲は深呼吸をして、またいつものように世界が彼女にいたずらをしているだけだと思った。その声を無視して、咲はトンネルの中を歩き続けた。通り抜けたトンネルの向こうは霧の海だった。彼女は別の領域に足を踏み入れたのだ。

赤鶴物語-2。

咲は岩だらけの砂漠をもう何日も歩き回っていた。すると、そよ風とともに囁き声が彼女の耳に届いた。その囁きは咲を大木が生えた森へと誘っていた。咲は注意深くその声についていったが、世界が黒蛇会を倒すのを手伝ってくれているのか、それとも世界が彼女をからかっているだけなのか、定かではなかった。どんどん深くなる霧が彼女の疑問を見通したかのように、遠く離れた場所に蛇の頭が姿を現した。彼女はその背の高い物体にゆっくりと近寄った。そして、その物体の正体に気づき、さっと足を止めた。

 

黒蛇への捧げものだ。

 

積み重ねられた死体は蛇の頭を形作るように、よじられ、変形させられていた。人間の足ほど太い草のツルが、死体を一つに縛り付けている。死体の皮膚には複数のシンボルが刻み込まれ、うじ虫がわいていた。捧げものの下には深紅の文字で何か刻まれていたが、咲にはその意味が分からなかった。彼女は同じような捧げものを故郷でいくつか見たことがあった。捧げものを作った本人は捧げものから離れていないはず。ひょっとしたら、まだその中にいるかもしれなかった。

 

咲は注意深く隅から隅まで捧げものを調べた。死体の顔はすべて生気を失っていた。その鼻孔は膨れ上がらず、その目はまばたきをせず、その指は揺れることはなかった。しかし咲が捧げものに背を向けると、誰かが笑う声が聞こえてきた。その笑い声は霧の中に深く響き渡った。咲はさっと闇の中を見渡した。そして、黒ずんだローブを着た男が彼女に手招きをしているのが目に入った。

 

咲は黒蛇の門弟を睨みつけ、その体を切り倒し、堕落者としての人生を終わらせてやると意気込んだ。咲は門弟に襲い掛かるため、目を閉じて呼吸を整えた。彼女は体中の血が熱くなるのを感じた。

 

咲は目を閉じて、木々の間を突進して飛び上がり、門弟の首を切り落とす自分の姿を思い描いた。そしてカッと目を開け、ゆっくりと敵の方向に歩き出した。その歩みは瞬く間に死の突進へと変わり、咲は刀の輝きとともに空中に舞い上がった。そして次の瞬間、咲が地面に舞い降りると、同時に門弟の首がドスンと地面に落ちた。その頭は落ち葉の塊にぶつかるまでコロコロと地面を転がり続けた。その傍らでは、門弟の体から大量の血が噴き出し、大木を真っ赤に染めていった。

 

しかし...

 

門弟の体がよろめくことも...

 

震えることも···

 

崩れ落ちることもなかった。

 

その代わり、門弟はしゃがんで、切り取られた頭を探し始めた。これは残酷な世界が咲に仕掛けた「いたずら」だということが彼女にはわかった。そして、切り落とされた頭が自分に向かって笑い出したのを見て、彼女は自分の運命を恨んだ。

 

その化け物は、自分の頭を抱えて咲の前に立ちすくんだ。そしてその頭が笑い声をあげるたびに、咲の体は屈辱に震えた。咲は恐ろしい声を上げながら蛇の形をした物体を粉々に切り裂いた。切り裂かれた死体は橙色に明るく燃え上がり、煮えたぎる霧の中へと消えていった。

 

長い沈黙の後、咲は別の領域に向かって森の中を突き進んだ。すると、突然周りの巨大な枝が虫けらを踏み潰すように彼女の上に倒れてきた。咲は降りかかってくる枝を次から次へと切り倒した。舞い上がり、攻撃を避け、宙返りをしながら前進を続け、森を抜けるまで咲は足を止めなかった。

 

赤鶴物語-3。

咲は何日も当てもなく領域の中で足を進めたあと、岩だらけの崖にたどり着いた。底なしの闇から空高く突き出た岩の上には、塔のような建物があった。その塔の上には謎の飛行船が停まっていた。その飛行船は紫色の血痕で覆われ、イカのような頭や足を持った生き物の死体が船体からぶら下がっていた。飛行船の操縦室からは塔の屋上に木のはしごがかけられ、誰かが塔の内部を調査しているようだった。

 

咲は注意深く岩だらけの峰を進み、崖から塔の入り口へと続く木橋を見つけた。放棄された建物を調べようと、咲はギシギシときしむ橋を渡ることにした。何度か足を踏み外しそうになったが、咲は無事に橋を渡り切り、塔の下層部にたどり着いた。

 

咲は塔の内部で韓国語で書かれた日記をたくさん見つけた。日記には、領域で見つかる不思議な虫や生き物のイラストが描かれていた。彼女は屋根へとつながる螺旋階段を使って部屋から部屋へと見て回った。それぞれの部屋に数えきれないほどの日記があった。日記の内容は寂しさで溢れていた。その気持ちは、咲のそれと似ていた。誰かと一緒にいたいと思う気持ち。月明りの下で笑ったり、おしゃべりをしたいと思う気持ちだ。

 

咲は気が遠くなるほどの間、誰にも会っていなかった。友達や家族と話したり、笑ったりすることほど、彼女が恋しいと思うことはなかった。永遠に続く旅に疲れていた咲は、ほんの一瞬・・・ほんの一瞬だけ、この塔を自分の「永眠の地」にしようと考えた。しかし、絶望に我を忘れかけたそのとき、助けを求める声が咲の耳に入った。その声は塔の屋根から聞こえてくるようだった。

 

我に戻った咲は、その声を追って階段を駆け上った。すると突然、若い男が彼女の前に現れた。驚いた彼は、まるで彼女のことを認識したかのように目を丸くした。若い男は急いで巻物をかき集め、ヘイリーという名前を叫びながら階段を駆け上った。

 

咲は彼に止まるよう呼び掛けながら、屋上へとその男を追いかけた。彼を傷つける気などなかった。咲は彼が何者なのか、どこから来たのか、そしてどうしてこの悪夢に包まれた世界を飛行船で旅することになったのか知りたかった。しかし、間に合わなかった。彼女が屋上についたときには、飛行船のはしごは操縦室にしまわれ、モーターの孤独な稼働音が底なしの深淵に響き渡っていた。

 

飛行船はゆっくりと着実に深い霧の中を進んでいった。深淵の生き物たちを遠ざける低音の警笛がときどき飛行船から聞こえてきた。

 

咲は飛行船が去ったあとも、長い間、飛行船が姿を消した方向を眺め続けた。それから彼女は後ろによろめき、倒れこんだ。倒れた彼女の横には、がっしりとした椅子に人間の骸骨が置かれていた。その骸骨は釣り竿を握りしめ、その周りには彼が深淵から引き上げた不思議な生き物の骨が所せましと並べられていた。

 

咲は思わず笑い声をあげたが、すぐにまた深い沈黙に戻った。そしして、涙がその頬をつたった。咲は骸骨の手からボトルを取り上げ、強い酒をグイっと飲み込んだ。そして釣り竿を手に取り、眼下に渦巻く霧の中へ釣り糸を投げ入れた。

 

咲は、なにを釣り上げるでもなく、誰を相手にするでもなく、一人きりでありとあらゆることを話しながら何時間も過ごした。それから外壁の縁に上った。そこから飛び降りて、すべてを終わりにしようという思いが頭をよぎった。しかし、そのとき突然・・・

咲は、声を聞いた。

咲はガタガタと音を立てながら骨の山に倒れこみ、悪夢に負けた自らの愚かさに自嘲した。そして、よろめきながら階段を下り、多界の旅を続けた。

赤鶴物語-4。

咲は少し二日酔いの頭を抱えながら足を進め、古代の像が置き去りにされ、像の「墓場」となった場所にたどり着いた。山のように巨大な岩から掘り出された古代の像は、正体不明の緑色の光でうっすらと輝いていた。その巨大な腕や足、頭部は崩れかけ、植物に覆われ、地面に横たわっていた。咲はふと、像の顔に表情がないことに気がついた。顔のパーツもなかった。それは目も、頬も、唇も、なにもない、のっぺらぼうだった。咲が崩れた像の横を通り過ぎたとき、かすかに石が砕ける音がした。振り返ると、石像の切断された手のひらの上で分厚い黒地の着物を纏った黒蛇の門弟が瞑想をしていた。

 

咲は目を細め、長い間その門弟を見つめた。彼が現実のものなのか、この闇の世界がまた咲に恥をかかせようとしているのか、見極めるためだ。しかし、咲は本能的にそれが多界まで追いかけてきた21人の門弟の一人に違いないと感じていた。

 

咲は獲物を狙うヒョウのようにこっそりと門弟に近づいた。崩れ落ちた手首によじ登り、肉付きのいい指の間をすり抜け、手のひらへと入り込んだ。そして刀を引き抜き、闇に加担した門弟を始末しようと飛び掛かったそのとき、咲は空中で巨大な手に掴まれ、その無表情の顔まで持ち上げられた。咲にはその顔が次から次へと無数の異なる表情に変化していくように見えた。それはまるで永遠に終わらない時間を覗き込んだかのようだった。

 

咲は目に入った光景にゾッとし、さっと地面にひろがる手のひらへと目を移した。門弟の姿はもうそこにはなかった。咲は思わず口汚い言葉を吐いた。そして顔をしかめ、巨像の手中にあった自分の体をよじらせ、そこから飛び出し、猫のような反射神経で地面へと舞い降りた。

 

次の瞬間、巨大な拳が天から降ってきた。周辺に土や埃の嵐が巻き起こった。咲は目にも留まらぬ素早さで、次から次へと降りかかる拳を避け続けた。巨像は執拗に咲を追い回し、墓場中を破壊し続けた。

 

巨像は自分の足を上げると、勢いよく地面に振り下ろした。咲は隠れ場所を変えながら、墓場から脱出するチャンスをうかがった。巨大な偶像の墓場で咲と巨像の「いたちごっこ」がしばらくの間続いたが、咲は渦巻く霧を通り抜け墓場から脱出した。

赤鶴物語-5。

森のすぐ向こうから悲鳴が聞こえてきた。咲は丘を駆け上がり、生き物の死骸や刺し傷を負った死体をいくつも通り過ぎ、アーチ型の門を抜けて草木の生い茂るコロシアムに入った。そして崩れかけの階段を上って観客席に入り、古代の競技場へとゆっくり足を進めた。すると咲の目に黒蛇の門弟の姿が飛び込んできた。一瞬、咲の体は凍り付いた。咲が数日間、いや、数週間だったか追いかけていた門弟だ。咲はもうどれぐらいの間、自分が彼を追っていたか覚えていなかった。その門弟はうつ伏せに横たわり、土の上に顔を埋め、両足と両腕のあった部分からは血が流れ、苦しみの声を上げていた。その体の周りには真っ赤な血の池が広がっていた。

 

咲は瀕死の男にゆっくりと近づいた。これまで世界が娯楽のために作り出した残酷な幻影と同じように、その姿が霧の中に消えることを期待したのだ。しかし門弟の姿が消えることも、男が咲のことを笑い出すこともなかった。咲はその男は現実のもので、悪夢が作りだしたものではないことがわかった。

 

咲は男に近寄り、その体を突っついた。そしてその足で胴体をひっくり返し、男を仰向けにした。男の目は血走り、唇は震え、口には唾液と血の泡が溜まっていた。彼は咲にさっさと自分を殺すよう懇願した。

 

咲は彼に死の安らぎを与える代わりに、胡坐をかいて地面に座り、門弟がゆっくりと苦しみながら死ぬのを見ることにした。それが彼に相応しい死にざまだ。門弟は咲の刀で痛みから解放されることを懇願し続けた。やがてその体からウジがわき、闇から現れたカラスがその体をつつき始めた。カラスたちは門弟の体を貪り続け、そこには彼の骨だけが残った。

 

カラスが再び闇へと姿を消すと、咲は立ち上がり、着物をはたいて汚れを落とした。そして深呼吸をしてから、刀を抜き、門弟の頭部を切断した。門弟の頭部はコロコロと地面を転がった。すると空が暗くなり、「骨と血」の雨が降り出した。

 

咲は空を見上げた。困惑していたものの、驚いたわけではなかった。彼女はそんな雨を見たことがなかった。危険を感じた咲は、近くのトンネルに駆け込み、自分の体に降りかかった肉の塊をふき取り、肩に突き刺さった骨を抜き取った。

 

咲がトンネルの端で辛抱強く待っている間、競技場には肉の塊や骨が溜まっていった。肉や内臓が音を立てて重なり合う中、背後から何やらガチャガチャと甲高い音が聞こえてきた。咲がゆっくりと振り返ると、そこには...幾人もの剣闘士のゾンビたちがいた。

 

咲は深くため息をつき、刀を構えながら、血で染まった競技場に再び足を踏み入れた。剣闘士たちは彼女に忍び寄ると、一斉に斧や槍や剣で彼女に襲い掛かった。

 

咲は最後の剣闘士を倒すまで戦い続けた。そしてようやく地獄のような悲鳴や叫び声は聞こえなくなった。疲れ切った咲はよろめき、血の海となった地面に崩れ落ちた。咲はじっと夜空を見つめながら、日常茶飯事となった悪夢から目覚めることを願った。

 

赤鶴物語-6。

咲は何週間も謎に満ちた野蛮な領域で黒蛇の門弟たちを追っていた。そして今、草が生い茂り、腐敗した死体でも溜まったような泥の沼地を通り抜けようとしていた。咲は何度か深い泥に足を取られ、身動きが取れなくなった。そのたびに湧き上がってくる絶望感や悲観的な思いに負けそうになりながらも、何とか力を振り絞って足を進めた。

 

ようやく沼を渡りきった咲は、その縁に崩れ落ちた。咲は手と足の震えが止まらないまま、なんとか立ち上がると、遠くにギザギザに見える山脈を前に呆然と立ちつくした。

 

絶望感に打ちのめされた咲は、自分の誓い通りに門弟を全員殺した後、自分が何をすればいいのか分からないことに気づいた。何をしても失った自分の一族は戻ってこないのだ。咲は一瞬、忘却の彼方に忘れ去られたいと思った。

 

そこには何も残らないだろう。怒りも、憎しみも、復讐も存在しない。ただ、孤独感、そして失ったものの思い出が残るだけだ。咲は血にまみれた両手を自分の顔の前にゆっくりと伸ばし、しばらくそれを見つめた。咲がその手を下げると、痛みが走った。そして腕の深い傷から膿がドロッと滴り落ちた。

 

咲は悪化する前に傷を手当する必要があった。

 

それとも、その必要はないのか・・・

 

彼女には自分がどうしたいのか、分からなくなっていた。

 

咲がこれほど絶望したことはなかった。その絶望感は咲の判断力を曇らせ、物事の意味や記憶を曖昧にした。咲は自分の動機や目的、過去をうまく思い出せなくなっていた。彼女が今感じるのはただ一つ...

 

「見捨てられた」という感覚だ。

 

彼女は、自分が愛した全ての人に見捨てられた気がしてならなかった。

 

そんなことを感じるのは馬鹿げていると咲には分かっていた。しかし、そう感じずにはいられなかった。

 

咲は遠くの山を見つめながら、永遠とも思えるほど長い間、そこに立ちつくした。そして孤独感を追いやるため、目を閉じて自分の人生を思い出そうと記憶をたどった。咲はなんとか懐かしい顔や声、笑い声を思い出した。そして・・・

 

彼女の「誓い」も思い出した。

 

自分の一族が始めたことをやり遂げ、一族に名誉をもたらすという誓いだ。

 

そのためには黒蛇会をこの世から一掃しなければならない。

 

しかし咲はまず、悪夢によって大きくなった疑念や絶望、悲観的な思いや感情を自分の中から一掃する必要があった。咲は目を開き、自分の心に寄生した虫を潰すように、悲観的な気持ちを一つ一つ漬していった。そして小さな袋から布を取り出し、化膿した傷の手当てをした。

 

すると、咲の耳に助けを求める、こわばった声が聞こえてきた。最初小さかったその声は、どんどん大きくなっていった。咲はその声の意味を理解しようとはしなかった。それが悪夢の罠かもしれないことは咲には分かっていた。それでも彼女は、その声を追って山のほうへと足を進めた。

赤鶴物語-7。

銀色の月明りの下、咲は助けを求める声を追って、死体の山をよじ登った。死体はひん曲がり、潰され、何かに食べられた跡があった。死体は様々な時代から来たと思われる武装した戦士たちで、彼らは建物ほど大きな触手を持った巨大な生き物との無謀な戦いに立ち向かったようだった。生気を失った触手は今でも、押しつぶされた戦士や市民たちを締め付け、彼らの口は大きく開き、その体は恐怖に硬直していた。この巨大な生き物は、別の世界から集まって悪夢の世界に住処を見出した何百もの生存者たちに襲い掛かったのだろう。しかし、この世界で普通の生活を取り戻そうとしても意味はない。結局は恐怖に支配されるのだ。

 

咲は多界を旅する間に同じようなことを何度も見てきた。破壊され、忘れ去られた世界で灰となったコミュニティの一部がここで蘇ったとしても、結局は謎めいた深淵の生き物によって滅ぼされる...まったく無駄な循環だ。

 

咲は戦いの悲惨な結末に囲まれ、虐殺の残酷さに深くため息をついた。この生き物を殺すために何百もの戦士が犠牲になった。しかでも、この生き物が本当に死んだという確証は咲には持てなかった。咲が死体を見ていると、生き物の触手が時々震えるのに気づいた。しかしその不規則な動きは、意識を伴わない死後の痙攣にすぎないと判断した。咲は腐りかけの触手をつたいながら、馬のいななき声がかすかに聞こえてくる方向へと霧の中を進んだ。

 

触手に沿って歩いていくと、馬のいななき声が次第に大きくなり、馬の声が咲の頭の中で「言葉」に変わっていくような気がした。咲は死体を蹴り上げ、押しのけながら、その声の主に近づいていった。そして、巨大な触手の下敷きになり、もがいている血まみれの馬を見つけた。

 

咲はゆっくりと馬の横にしゃがみ込み、しばらく馬を見つめながら、その馬の「言葉」に聞き入った。彼女はその言葉を理解しようとはしなかった。理解できるとも思わなかった。必要なことは、この世界からすでに学んでいた。咲が不可能だと思ったことはすべて可能であり、想像可能なことはこの悪夢のどこかに存在していた…

 

咲は自分が助けてやるから安心するよう馬に語り掛け、巨大な触手をなんとか持ち上げようとした。咲の言葉に馬は安心したように見えた。そして馬が彼女に感謝の「言葉」をかけたその瞬間、生き物の巨大な目がパチッと開いた。

 

その目は、あり得ないほどの怒りに燃えていた。

 

咲は躊躇することなく体を翻し、その瞳に刀を突き刺した。巨大な瞳から血が噴き出し、またたく間に目が真っ赤に染まった。生き物は恐ろしい悲鳴を上げてから、息を引き取った。咲は刀を引き抜くと馬の元に戻り、巨大な触手を真っ二つに切り裂いて馬を解放した。そして、咲に感謝する馬に乗って深淵へと走り去った。

赤鶴物語。怒りの流血。

咲が血まみれの頭を炎に投げ入れると、残り火がパッと夜空に舞い上がった。揺れ動く炎の輝きが、咲の暗い表情を照らした。咲は人間の皮膚でできた巻物に目を通し、古代のシンボルを解読しようとしていた。彼女にはシンボルが何を意味するのか全く理解できなかった。揺れるたき火の明かりの下で咲がシンボルを見つめると、シンボルが揺れ動き始め、形を変えていった。それはまるで生き物のようだった。しかし、咲はそれが現実ではなく、自分の心が作り出した幻影だということを知っていた。

 

咲はハッとして、その巻物を炎の中に投げ捨てた。咲の周りには彼女が切り倒した敵の死体がいくつも横たわっていた。咲はすっと立ち上がり、貪欲に燃え上がる炎の中に死体の骨や肉体をゆっくりと投げ入れた。そしてその炎を見つめながら、いつか愛する国から黒蛇会を一掃することを願った。

 

咲は死体の「薪」がすべて燃え尽き、灰となるのを見守った。そして、そこには...

 

さっきの巻物が傷一つない状態で残っていた。

 

咲は薄暗く燻る灰の横にしゃがみ込み、灰の中からその巻物を取り出した。するとそのとき、背後でカチッという聞き覚えのある音がした。

 

「我々のものを返せば、命は助けてやろう!」

 

咲が振り返ると、蛇の鎧を着た幾人かの暴漢が彼女に銃を向けていた。咲は怒りを爆発させ、刀を閃かせた。そして、辺り一面は血の海となった。

 

7年と373日目。夜。

これまで赤鶴に関する物語は全て集めて読んできた。赤鶴が黒蛇会の最後の門弟を追いかけて別の次元に入り込み、旅をする話は特に興味深い。赤鶴の話に共通することは、この次元は人の考えや記憶の中に存在するということだ。言い換えれば、自分の想像に集中すれば、自分の心に潜む、最も陰湿な世界にも入り込めるということだろう。それが本当なら、まず最初に立ち向かうべきなのは、自分の心かもしれない。

7年と398日目。昼。

生存者の何人かは破損した飛行船を見かけている。そこには死体も生き物の形跡も見当たらない。この前の夜サムから聞いた話を思い出した。即席の飛行船で悪夢のような世界を旅する生存者の話だ。私も破損した飛行船を調査して、いろいろと物集めをしてみようか・・・その飛行船がサムの話と実際に関係しているか分かるかもしれない。みんなで協力すれば、飛行船を稼働させることもできるかもしれない。なかなか悪くないアイデアだ。

 

~~おしまい~~