「タリータとレナート」の背景物語が知りたい!っ方はぜひお読みください!マッチングの待ち時間なんかにもぴったりです。
学術書15で解放されるタリータとレナートの背景物語
タリータとレナートリーラ兄妹「記憶:2876」
彼女は何かがあれほど空高く舞い上がるのを見たことがなかった。そして、そこから落ちてくるのも。
叔父のイナシオが観衆とともに歓声を上げている。幼いタリータの耳に振動が走るが、その目は空から落ちてくる凧から離れない。それは風の中でクルクル回り、まるで踊っているようだ。
その日のハイライトとなる試合が始まり、10人の対戦者が凧を空高く解き放った。糸が絡まり凧が落ちてくるたびに観衆が沸き立つ。対戦者は残り2人となり、観衆が息をのみ、沈黙が広がる。その静けさにタリータは戸惑いながらも、凧を操るボタフォゴ出身の若者と叔父のイナシオを見つめた。
母と父は思い切りイナシオを抱きしめ、母の腕の中で赤ん坊のレナートが泣き出したことにも気がつかない。イナシオは満面の笑みを浮かべ、その瞳は、その朝彼が凧を用意していたときにタリータが見たのと同じように輝いている。イナシオは対戦者の若者に歩み寄り、手を差し出す。少年は笑みを浮かべ、それに応える。
それは自然とこぼれる笑顔だった。世界で一番美しい国で太陽が眩しく輝く日に、友だちや同じ趣味の仲間に囲まれているのだ。自分が負けたことなど少年にはどうでもよかった。仲間と楽しく過ごせただけで幸せだった。
タリータは観衆の上に目を向け、ゆっくりと落ちてくる少年の凧を見つめた。
タリータとレナートリーラ兄妹「記憶:9409」
彼はソワソワして指を擦り合わせる。すぐに凧を揚げられないなら、自分の部屋でパズルを解いていたかった。長話には付き合っていられない。そんなの無意味だ。本当につまらない。ここには凧揚げをしに来たんだ。話を聞くためじゃない。
レナートは周りの子どもたちを見た。誰も彼のようにソワソワしていない。足も動かさず、キョロキョロしている者もいない。みんな、タリータが凧揚げのデモンストレーションをするのをじっと見ている。なんとも奇妙な光景だ。彼らはただ見ているだけじゃない。タリータの説明に注意を向け、聞き入っているようだ。
しかし、それはいつものことだ。誰もがタリータの言葉に耳を傾け、その冗談に笑う。彼女は会話の中心で、あらゆる行事に誘われる。彼女は大人も子どもも、誰でも魅了してしまう。レナートが一度、彼女の冗談を試してみたが、笑う者はいなかった。
彼は子どもたちの観察を止め、姉のほうに目を向けた。彼女は同じ年ごろの子供たちと比べても、なにか特別なものを持っていた。彼が姉と目を合わせると、彼女が微笑む。彼も微笑んでみせたが、その心は暗くなった。自分はどれだけ頑張っても姉のような人気者にはなれないだろう。
タリータがようやく説明を終え、子どもたちが凧揚げを試す番になった。サングラスをかけていても眩しいほどの青空だ。太陽が目に入って凧が見えないと一部の子どもが言い出したが、彼は気にしない。彼には凧がよく見える。そして、他の子どもたちの凧もしっかり目に入った。
凧を揚げてすぐに他の凧を落とすのはスポーツマンらしくない行為だとタリータがたしなめる。しかし、レナートにはその意味が分からない。それがカイトファイトの「目的」じゃないか・・・他の凧を落とす度に彼の顔に笑みが溢れた。それは真の喜びに満ちている。
なんだ・・・どうして僕の凧の糸が緩んだんだ?レナートが目を上げると、自分の凧が落ちてくるのが見えた。
横にいるタリータが彼の肩を掴み、大声で歓声を上げる。
そんな。ありえない。人気者になれない自分が勝つこともできなければ、いったいどうすればいいんだ?
タリータとレナートリーラ兄妹「記憶:1152」
タリータは右側に座っている友だちから瓶を受け取った。中身はなんでもいい。彼女はそれをグイっと飲み込んでから、左側の友だちに瓶を渡した。
彼らはビーチの小さなたき火の前に座っている。10人の仲間は笑ったり歌ったりしながら、静かな夜を楽しんでいる。イナシオの店で楽しく、忙しく過ごした一日を締めくくる最高のひとときだ。
レナートは店を閉めるやいなや、家に帰っていった。試合に向けて準備をする必要があるそうだ。タリータもさっさと家に帰って準備したほうがいいと彼が言い出した時には、彼女はその話を聞くのを止めていた。
なんてバカな子なの。タリータはあきれて笑みを浮かべた。レナートはなにも分かっちゃいない。友だちと過ごす時間ほど素晴らしいものはない。彼女は仲間のほとんどとビーチで出会った。彼らとの時間は、気ままで楽しいひとときだ。そして試合で役立つ情報を入手する時間でもある。
その若者たちはタリータがこれまでにカイトファイトで対戦してきた相手だ。その中には彼女が凧揚げを教えた者もいれば、彼女が叔父の店で働き出したときにはすでに常連客だった者もいる。みんなカイトファイトの強者たちだ。タリータは仲間と過ごしているうちに、彼らの性格が凧揚げの癖やテクニックに反映されることに気づいた。カイトファイトで勝利しても慢心しない者や、負けるとひどく悔しがる者…対戦相手もいろいろだ。
こうして友だちと過ごすことで、彼女は試合前、試合中、そして試合の後で、より優れた参加者となれる。その上、一晩中楽しく過ごすこともできるのだ。
それに勝つことはできないでしょ、レナート。
タリータとレナートリーラ兄妹「記憶:5990」
それは彼が最も苦戦したカイトファイトとなった。
レナートはいつも対戦相手の凧をできるだけ早く落とすことを好み、そのことはタリータもよく知っていた。レナートの思った通り、タリータは最初彼から距離を置き、他の凧を彼に落とさせる。レナートは喜んで次から次へと凧を落としていく。僕が凧を落とせるのには理由がある。このスポーツはパズルなんだ。僕が力を入れてきた分野さ。パズルのことなら十分承知済みなんだ。
残るはレナートとタリータだけになった。彼はタリータの凧に集中し、凧を前後に動かしながら積極的に攻撃を仕掛ける。タリータの凧はいつものように大げさに空中を動き回る。その動きにレナートは苛立った。これは見世物じゃない。「ファイト」なんだ。
レナートがようやく姉の動きを読み、彼の糸を絡ませる。糸の引き合いが始まった。力を入れ過ぎてはいけない…レナートが注意深く指を動かす。間違って一気に引っ張れば自分の糸が切れて、相手に勝利を手渡すことになりかねない。
勝負の成り行きを見守る観衆の声が大きくなる。しかしレナートには自分の勝利がすでに見えていた。あと数回引っ張れば、タリータの糸が切れるだろう。
空には彼の凧が残り、タリータの凧が落ちていく。
観衆が歓声を上げるが、レナートの耳にそれは入らない。この勝利は彼だけのもの。そして、もう一人の人物と分かち合うものだ。彼は姉のところに駆け寄り、抱き上げた。二人にどんな違いがあっても、二人がいくらケンカをしても、タリータはいつもレナートを励ましてくれる。今日の彼があるのは彼女のおかげだ。
レナートは勝った。しかし、それは姉弟二人で手に入れたものだった。
タリータとレナートリーラ兄妹「記憶:5834」
彼女はテーブル席に腰を下ろした。バーのカウンター席に座ってはいけないと父親に言われいてる。時計は午前11時を指し、バーは開いていないとしてもだ。父親は、彼女が勝手にバーに入って、こっそりお酒を飲むとでも思っているのだろうか。
見知らぬ男の肩に手を置きながら、父親が外から戻ってきた。その男はずいぶん大人に見えたが、20歳を超えていればタリータの目には誰でも大人に見えることも彼女は知っていた。10歳の少女にとって世界はまだ子どもと、大きな子どもと、大人たちに分かれて見えた。
父親がその男を見つけた場所にタリータも居合わせていた。タリータは昼ご飯を食べに家に連れていかれるところだった。午後は母親が家にいて、父親はバンドの打ち合わせで忙しかったからだ。しかし、クラブの駐車場で落書きをしている見知らぬ男と鉢合わせたとき、父親はその予定を変更せざるを得なくなった。
父親はクラブのオーナー、アンジェロの名前を呼びながら、その男をクラブの奥へと引っ張っていく。彼の目にはタリータの姿も、ステージの上にいるバンドも入らないようだ。
父親について行ったら怒られるだろう。あの男が外で騒ぎ始めたとき、クラブの中で待っているよう、もうすでに父親から怒鳴られていた。彼女は座席から座席へ、テーブルからテーブルへと少しずつ父親やアンジェロやあの見知らぬ男がいる場所に近づいていった。3人はアンジェロのオフィスに続くホールの横に立っている。タリータが近づいてきていることなど、全く頭にない。父親はアンジェロに携帯の画像を見せている。そういえば父親はさっき、あの落書きの写真を撮っていた。
その写真を見ているうちに、いつもしかめっ面のアンジェロの顔が…笑顔に変わった?彼がなんと言ったのかは聞き取れなかったが、今その3人は笑い声を上げている。言葉が聞き取れるぐらい近寄ったところで、アンジェロがその男を連れて廊下を歩いていった。
父親の目にようやくタリータの姿が入る。お父さん、今何があったの?
彼は廊下の方を振り返った。あの若いアーティストに仕事を見つけてやったところさ。
タリータとレナートリーラ兄妹「記憶:992」
レナートがスイッチを入れると、パチパチと音を立てながら店内の明かりがついた。外はまだ薄暗く、窓越しに海岸に打ち寄せる波の音が聞こえてくる。
あと2時間。叔父のイナシオがカイトショップに出勤するまである。
レナートが道具を用意していると、サンダルが砂を踏みつけ音を立てる。叔父のイナシオはとうの昔に店から砂を掃き出すのを止めていた。自分の店にはビーチがある、というのが彼の口癖だ。タリータは文句を言っていたかもしれないが、何かするというわけでもない。
そして今日、レナートは何とかするつもりだ。
床の砂をすべて掃き出すだけじゃない。カウンターも窓も徹底的に磨いてやる。レナートはゴミ箱も交換するつもりだ。昨日の夜買っておいたゴミ箱は、フットペダルを踏めば蓋を開けることができる。
彼は店の床から砂を掃き出すと、バケツに水を入れて洗剤を混ぜた。イナシオの店で働き出してから、もう3年になる。毎日のように店に出て、僕の働きぶりにイナシオやタリータも喜んでくれている。でも、もっと前から今日のように仕事に力を入れるべきだった。
彼は床の油汚れをこすり落とし、頑固な砂粒を一緒に取り除いた。ふと、ホスピスケアにかかっていたマウリシオの姿が頭に浮かぶ。そして彼が死ぬ数日前に言った言葉を思い出した。誰でもいずれ自分のいるべき場所にたどり着く。そして、そこにたどり着くには自分なりの時間がかかるものだ。
レナートは老人ホームでのボランティア活動を愛するようになっていた。誰かの世話をすることで自分を大切にすることを学んだし、自分の大切な人を気に掛けることも学んだ。
彼は瞬きをして我に戻ると、開けた窓から太陽の光が差し込んでいるのに気づいた。ビーチにタオルやパラソルを置く人の笑い声も聞こえてくる。そして店のドアでは、イナシオが言葉を失い突っ立っている。
これほど店がきれいになったのは数年ぶりだ。タリータが見ればきっと目を丸くするだろう。
タリータとレナートリーラ兄妹「記憶:7510」
それは女友達と楽しく過ごす夜になるはずだった。
タリータがショットグラスを乗せたトレイを持ってテーブルに戻ると、そこにルイーザ、ドロレス、ベアトリスの姿はなかった。どこ行っちゃったのかしら?彼女が友だちを探していると、トイレのそばに集まった女性の集団から騒ぎ声が上がった。彼女たちはトイレの列に並んでいるわけではない。
騒ぎ声に紛れてトイレの奥から誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。
タリータは集団をかき分け、トイレの中に入っていく。そういえば・・・アントニアがこの場所に現れたら、一発お見舞いしてやるとドロレスは言っていた。タリータたちがドロレスをなだめようとすると、彼女は余計にヒステリックになったものだ。
トイレの白いタイルフロアの上ではドロレスとアントニアが取っ組み合いのケンカをしている。タリータはその光景に思わず立ちつくした。ドロレスが言っていた「一発」は見逃したようだ。ルイーザとベアトリスは壁に寄りかかって止めるよう二人に向かって叫んでいる。個室に入っていた女性がケンカを避けてそそくさと通りすぎ、手も洗わずに出ていった。
タリータはすこし怖かったが、同時にアドレナリンが湧き出るのを感じた。母さんが教えてくれたこと、忘れてないといいけれど。
アントニアはドロレスの上にまたがり、止めるよう懇願するドロレスを無視して彼女を叩き続けている。タリータはそこに飛び込んでいく。彼女はアントニアの体に腕を回してから横になり、ドロレスから引き離すとアントニアを床に押さえつけた。
アントニアがタリータを押しのけようとする。タリータはそれを許さず、アントニアの体の上に自分の体重をすべて乗せて抑え込む。そしてその体に自分の腕と足を巻き付けた。アントニア、できるもんなら私を殴ってみなさいよ。
しかし、それは無理なことだ。二人の体は絡み合い、床の上で固まっている。アントニアがタリータを殴ることも、タリータがアントニアを殴ることもできない。そして、重要なのは誰かを傷つけてケンカに勝つことではない。重要なのは暴力を止めてケンカに勝つことだ。母さんの教えてくれた通り、警察の世話にならずになんとかしなくちゃ。
タリータが優位な態勢を崩すことなく話そうとする。そして、アントニアのわめき声にかき消されないよう声を上げた。警備員を連れてきて。今すぐに。ベアトリスがトイレから駆け出していった。すべてを目撃したドロレスは驚きを隠せない。ひょっとして今のは柔術?
タリータは微笑んで返す。今のが役に立つ日が来るって母さんはいつも言っていたわ。
タリータとレナートリーラ兄妹「記憶:4444」
人は孤島ではない・・・・彼の母親はよくそう言っていた。レナートはその諺の意味を知っていたが、それが真実ではないことも分かっていた。レナートはずっと自分が孤島であるように感じながら生きてきた。自分の近くに現れた他の島に橋を架けてつながることは難しく、そうする意欲もあまり感じなかった。
レナートは新鮮な空気を吸い込んだ。この場所に車は入ってこられない。もし自分が本当に孤島なら、パケタ島になりたい。
彼が10代のころフェスタ・デ・ランロケを楽しむため、家族とここを訪れたことがある。家族はとても楽しそうだった。誰もが楽しそうだった。彼は違った。人混みも騒音も不快なものでしかなかった。そしてあの花火。人があんなものを見て喜ぶ理由がレナートには理解できなかった。
しかしレナートはもう、あの頃の少年ではない。今日はフェスタ・デ・ランロケでもない。島には静寂で穏やかな空気が流れ、太陽の光が降り注ぎ、涼しい風が吹いている。島を歩き回ったその足が少し痛むが、それも気にならない。パケタ島には他の場所にはない静けさがある。
レナートは緑の多い公園に入り、ベンチに座った。彼の指がピクッと動く。そこにはギターもパズルもない。携帯のバッテリーはずいぶん前に切れた。彼は手をリラックスさせ、ただ何もしないことを楽しもうとする。
年上のカップルが彼の横を通り過ぎ、木の下の草の上に布を広げた。レナートは、彼らがスナックを食べたり、キスをしたり、笑ったりするのを見守った。彼らはリオから来たのだろうか。ブラジルの人だろうか。子どもがいるんだろうか。家族と離れて、つかの間の二人だけのひとときを楽しんでいるんだろうか。
彼らは幸せそうだ。レナートは、彼らのようにピクニックを楽しむ自分の姿を思い浮かべようとする・・・でも誰と?自分とそんな人生を分かち合うような人を想像することは難しかった。
僕には孤島があっている。多分…でも、僕はまだ若い。気が変わることもあるだろうけど。
そよ風が再び吹いてきた。彼は目を閉じ、心地良い風を体いっぱいに感じた。
~おしまい~