・木村結衣アーカイブストーリーについて知りたい!
・アーカイブムービーも見たいな!
とDBDのサバイバー、学術書20で解放される、木村結衣のアーカイブストーリーについて詳しく知りたい方向けの記事となっています。
木村結衣アーカイブムービー
学術書20で物語と一緒に解放されるアーカイブショートムービーになります。
木村結衣アーカイブストーリー【学術書20】
記憶6397
壁の時計が午前5時を知らせ、バーの店員はカウンターに椅子を乗せていた。それを角のボックス席から結衣は見ていた。
目の前の左には日本酒の瓶が、右には最近勝ち取ったトロフィーが置いてある。そのレースで彼女は本領を発揮した。
この世に怖いものはないかのようにバイクの合間を飛ぶようにすり抜け、ゴールをぶっちぎりで疾走した。そしてサクラのメンバーたちと喜びを分かち合った。
「今日は一晩中騒ぐよ」という結衣の言葉は誇張ではなかった。栄のバーを何軒もはしごしながら一番遅くまで開いている店を探し歩いた。
仲間は一人、また一人と、お開きにしようと言ってタクシーで帰っていった。周りがギブアップしても、結衣はつぶれなかった。それでも虚しさは消えなかった。
レースに勝つたびに痛みを感じる。腹の底の何かが足りないような感覚。レースのたびに、人ごみの中で迷子になっているような気持ちを覚えた。
彼女にとっては家族であるサクラ7でさえ、もうその痛みを忘れさせてはくれない。そして今、結衣は一人だった。
あるのはトロフィーと酒、そして自分の思考だけ。TK3まで2週間を切っている。そのレースに出ないことも、引退を考えていることも、まだ仲間には伝えていない。
ポケットの携帯電話がまた鳴った。一晩中無視していたが今度こそは出なければならないような気がして、結衣はポケットから携帯を取り出し着信画面を見た。
母からだ。結衣は体が震えないようこらえた。お母さんから電話が来ることなんてないのに。母親が電話してくるときは、決まって父親が寝てしまった後だ。
こんな朝早くに電話があるということは...目の前に祖母の顔が浮かび、結衣は震える体を抑えることができなくなった。
記憶6425
結衣はハチマキを持ち上げ、みんなが書いたサインをまじまじと眺めた。腫れぼったい目に痛みを感じながら、サクラ7の仲間たちやレースの対戦相手の名前を見る。
中には、田淵伸二のようにライバルだったが友達になった人のサインもある。結衣がレースで腕に巻くこのハチマキは、人生で遭遇した人々の名のもとに語られる彼女の伝記のようなものだ。
何も書かれていないハチマキの真ん中あたりを見て、祖母がいないという喪失感を覚える。バイクの修理を学んだり、バイクに乗ったり、レースに参加したりすることを応援してくれたのは家族の中で祖母だけだった。
今の私がいるのは全部おばあちゃんのおかげだ。何があってもお葬式に出なきゃ。あの父親と会わなければいけなくても、行くしかない。娘がやりたい道に進むことに腹を立て、勘当した父。
一人で生きろと自分を家から追い出したあの父と会うことになっても...結衣の頭の中に様々なシーンが流れてくる。
それはこれから作られる物語の場面だ・・・両親が自分に抱きつきながら涙を流し、これまでの仕打ちを詫びて許しを請うシーン。
葬儀場で参列を拒まれて追い出され、両親を罵った後に夕日に向かってバイクを走らせるシーン。両親と最後に同じ空間にいたのは、もう10年以上も前のことだ。何があっても不思議ではない。
結衣はハチマキを胸の上に置くと、ブラインドの隙間から差し込む光を見つめた。
記憶6498
名古屋から飛騨への長い道のりは、永遠に続くようなトンネルのせいでさらに長く感じられた。高速で通り過ぎる何の特徴もない壁が結衣を取り囲んでいる。
もう一時間は走っているだろうか?それとも一週間?この道路を走っていると、そんな感覚すらしてくる。トンネルのカーブを順調に進んでいると突然、遠くに見える光の点がどんどん大きくなってきていることに気付く。
そして一感覚に強く訴えかけるようなきつい太陽の日差しに、思わず目を閉じそうになる。結衣はスロットルを緩め、深く息をつく。もう壁はどこにもない。
そこには新鮮な空気と無限に続く森があるだけだ。バイク乗りは運転していると2つのものを同時に視認できるようになる。結衣は前方に視線を向けているが、道路の両側に生えている木々も視界に入れることができる。
飛騨の郊外にある森はいつでも美しく、夏のピークを迎える直前のこの時期はなおさらだ。その森は、結衣がかつて祖母と長い時間をかけて歩き、語り、笑い合った場所だった。
散歩の途中、泣き出す幼い彼女を祖母が抱きしめてくれたこともあった。2人はいつも、谷を見下ろす崖で歩みを止める。そこにある2つの滑らかな岩に座り、谷の向こうに沈む夕日を眺めるのだ。
彼女はその場所にいつも安らぎを見出していた。そこでは頭の中がはっきりとする。彼女がバイクとの運命を感じたのもその場所だった。今すぐ安らぎを感じたい。
結衣はバイクを片側に寄せ、スタンドを下ろした。記憶が貨物列車のように押し寄せてくる。彼女は2人の特別な場所を心に思い浮かべた。
祖母の石鹸の香りや、散歩の終わりに時々くれたキャンディの味、顔に差す夕日が蘇る。結衣は森に目を向けた。あの場所のことは色々覚えてるけど、行き方だけは思い出せない。
記憶6311
直列4気筒エンジンが、速度を落としてもなお朝の静けさを切り裂く。結衣は狭い道をバイクで通り抜けながら、葬儀場の看板を探して目をキョロキョロと動かした。何年も帰っていなかった飛騨での再会は生易しいものではない。
懐かしい路地や街角の商店を通り過ぎても、思い出に浸っている余裕はない。ようやく葬儀場にたどり着くとスタンドを下ろし、忙しくヘルメットを外して革のジャケットを脱いだ。
結衣は汗ばんだ髪を後ろに払い、クローゼットから引っ張り出して着てきた1軍服のシャツを整えた。結衣が葬儀場に足を踏み入れたのは開始時刻の1分前だった。
会場はすでに満席で、どの参列者もうろ覚えの顔だ。結衣が入場すると皆が振り返って彼女を見る。結衣は数歩進むたびに右に、左にと頭を下げ、衝撃を受けた様子の人々が発するヒソヒソ声を無視した。
勝手に言ってろ。あんたらのために来たんじゃないんだ。
私が来た理由は・・・葬儀場の一番奥に置かれた棺桶は花に囲まれ、華麗な装飾が施されている。美しいしかめっ面をした祖母の遺影を見た結衣は、過去に押し戻される。
毛布の中でうずくまり、足元でおばあちゃんが話してくれるお話を聴いていた思い出。自分だけの平和な世界だ。
最前列にいる母親が席を立つと、その隣にいる父親のハゲた頭が目に入った。前まで結衣が近づいても父は動かない。また胃が痛み出し、倒れそうになる。
自分は人生で大きな過ちを犯してしまったのだろうか?母親が頭を下げ、結衣が戻ったことを知らせる。この人は私が父親に家を追い出されたときに何もしてくれなかった。
父親に何もかもを取り上げられた私を、助けてくれなかった。それなのに、そんな過去はなかったかのように振る舞っている。
私は昔から演技が得意ではなかった。母親が隣の空いた席に座るよう示し、結衣は席についた。母親の向こうに座った父親は微動だにせず、まるで生きた寒冷前線のようだ。
父親も演技が苦手な人間だった。
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通夜は結衣がぼんやりとしているうちに過ぎていった。線香が灯され、弔問者たちはお教を唱える。明日も全員が葬儀のために戻ってきて、この流れが繰り返される。帰省中、母は実家に泊まるよう彼女に言わなかった。
結衣も頼まなかった。父親が家に帰ってきてほしくないのなら、私だってせがみはしない。数件電話をかけた後で高山にいる友だちの友だちに連絡を取った。寝袋と、ほとんど使われていないリビングがあるらしい。
しかし一日はまだ始まったばかりで、結衣にはやるべきことがあった。結衣は遠くの山頂にある木々を見上げた。
彼女は祖母と一緒に森を散歩した幼い頃を思い出していた。それでもあの秘密の場所への行き方が思い出せない。
街の南側、トンネルに続く道路沿いにあったはず。南に向かって歩くしかないか。結衣は襲い来るネガティブな考えを振り払いながら森を歩いた。
父さんが謝るわけがない。母さんだって・・・あの場所が見つかったとして、それでどうなる?おばあちゃんはそこにはいない。もう家に帰ろう。
自分を誤魔化すのはやめて。おばあちゃんだって、きっとわかってくれる。左手にある道は登り坂になっていた。結衣は道に迷わないよう、常に左へ進むようにしていた。いつでも引き返すことができるように。しかしもうここまで来てしまった。
葬儀は明日だ。それまで後戻りはできない。
記憶6385
狐の石像が台座の上から結衣を見詰め返した。道端にあるこの神社に寄るつもりはなかった。用水路沿いのこの場所に神社があることすら覚えていなかった。
しかしなぜかここで一息せずにはいられなくなったのだ。祖母はこの狐についてよく語ってくれた。
祖母自身が体験した話だという。それは祖母が子供だった頃のつらい時期、先の未来も暗かった頃の話だ。
狐たちは昔から人を化かすと考えられていたが、祖母にとっては道しるべだった。祖母は森で迷い、怖い思いをしている時に偶然狐に出くわした。
狐は祖母の前でたくさんの尾を広げながら手招きをして、祖母を森の奥深くへと誘導していった。祖母は子供特有の好奇心に負け、一歩ごとに恐怖心も忘れてついて行った。
ところが狐は姿を消してしまう。狐は祖母を遠い森の奥へと誘い込み、置き去りにした。そこは祖母が足を踏み入れたこともないような、家からずっと離れた場所だった。
祖母が再び涙を浮かべ出すと、自分とは違うすすり泣く声が聞こえてきた。泣き声はどんどん近づいてくる。すると腕が祖母を包み込み、家へと連れ帰ってくれた。
祖母の母、結衣の曾祖母はこれほど森の奥深くまで探すつもりはなかったという。娘がそんなに遠くに行くわけがないと。しかし何かが彼女を導き、進み続けろと伝えたのだ。
子供の頃、この話を何度も聞かされた結衣はまたこの話かとうんざりした気持ちを隠すのに必死だったものだ。一方、誰よりも聞かされているであろう彼女の父親は、全く聞き飽きているようには見えなかった。
結衣は静かな用水路の道を肩越しに振り返り、稲荷神社に浅くお辞儀をしてからまた進み始めた。
記憶6301
墓地は町外れの丘の上にある。結衣は墓石に目をやりながら、らせん状に曲がる道を上った。祖父の墓は丘の一番上に立っていた。祖母は再び祖父の隣に戻ることになる。
丘の頂上で、きれいに磨かれた墓石を前に最後の法要が行われる。結衣は、焼香をあげ、少し時間を置いてから母親のもとに戻る父親の姿を見ていた。
結衣は頭の中で何度も計画を練り直す。葬式が終わって、両親に別れを告げて、自分に何か、何でもいいから言う最後のチャンスを二人に与える。
そのとき周りに誰かがいれば、気まずい思いをさせるだろう。これが最後のチャンスだ。その後でどうなるかはわからない。
葬式が終わり、参列者が次々と会場を後にする。結衣は祖母の墓石に手を置いた。今はもらえるだけの力が全部必要だ。
両親は立ち去らず、近くにいる。結衣は二人に向かって足を踏み出した。それじゃあ。
私は帰る。結衣は会釈をし、母親は会釈を返して気を付けて帰るよう言う。
そのとき父親は・・・立ち去っていった。結衣の希望と一緒に。このようにして映画はエンディングを迎えた。
劇的な決戦もなければ涙の和解もなく、一件落着のカタルシスもない。それはただ、始まったから終わったに過ぎなかった。母は丘を下る結衣の姿を見ていた。
振り返るな。私はもう別れを告げた。家に帰るんだ。
所持品はバイクのシートの中に入っている。この町に彼女の置き忘れたものはない。結衣は目を擦る。涙は出ていない。
あの人たちのことが理由の涙ならもう出尽くしした。結衣はバイクに乗る。
レーサーはもう卒業だ。求めていた家族を失ったことを嘆く日々も終わり。あるのは目の前に続く道だけ。
そして私にできることは、バイクに乗ることしかない。
木村結衣基本情報
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