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【DbD】ウィリアム・ビル・オーバーベックの記憶(物語)を覗いてみよう『学術書Ⅶ』【デッドバイデイライト】

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のん

こんにちわ。のんです。
本日は学術書Ⅶで解放される【ビル】のアーカイブ物語のご紹介になります。

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【DbD】ウィリアム・ビル・オーバーベックの記憶(物語)を覗いてみよう『学術書Ⅶ』【デッドバイデイライト】

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学術書Ⅶの特定のチャレンジをクリアすると解放される、ビルの物語になります。スキマ時間にお読みいただければと思います。

長い帰路

記憶776

オーバーベックはズック袋を抱え、よろめきながら家から出た。ここ数時間に起きたことをまだ理解しきれていない。何もかもがぼやけて見える。何も意味を成さない。麻酔とアドレナリンが混ざり合い、チクチクする痛みと共に血管が未だに脈動している。

 

またベトナムの記憶が蘇る。どこか遠くの夢の国へ彷徨い込んだかたと思うと、次の瞬間には奇妙で気がかかった、半ば悪夢と言える中で執刀医から逃げようとしている。看護師が座したかと思うと激しくその身を揺らし、何かへと変わっていったのを覚えている。何なのか彼にはわからないもの。今でもわからない。そこら中にいると言うのに。

 

内蔵がむかつき探れ、脚の重みに必死に抵抗するのを覚えている。彼の周りに血塗られた地獄が顕現する中で、目を閉じまいと力を振り絞る。看護師と共に床に倒れ込んだのを覚えている。トレーのカタカタ言う音。メスやその他の器具が床にぶちまけられる。

 

彼は眠りたかった。ただ眠りたかった。

 

しかし目には閉じるなと指令を送り、消毒された床 の上に落ちているシリンジを見つける。咄嗟に腕を突き出してシリンジを掴み、 心臓へと突き立てたことを覚えている。それとも腕だったか?両方だったか?もう覚えていない。どちらでもいい。重要なのは、あの地獄から生きて生還したことだ。

 

ズキズキと痛む頭を振ると、路地を塞いでいるバリケードをよじ登る。燃え盛る街の中を駆け、マーケットの方へと向かう。街の大部分は壊滅している。煙と悪臭が路に漂っている。文明が燃える匂いがする。人間性が燃えている。彼には覚えのある匂い。忘れ去りたい場所へと彼を連れ戻す。

 

感染した者達の絶え間ない叫び声にサイレンが覆いかぶさる。瓦礫やバリケードからは炎が吹き出し、フィラデルフィアはまるで死と破壊の焦土だ。緑のインフルエンザとやらの記事を読んだことを思い出す。それから数日ですでに全てがクソッタレた石器時代にまで戻されてしまったかのように感じる。ベトナムより酷い。よほど酷い。フィラデルフィアは混乱に包まれ、感染者に溢れてしまった。

 

ただのインフルエンザではない。冗談じゃない。主張された数多の陰謀論。だがもうそんなことはどうでもいい。ただどうでもいいのだ。今考えるべきは生き残ることのみ。前にもこんな危機をくぐり抜けた。何度も。誰かの悪態をつく声が耳に入る。マーケットの入口で若い女性が感染者の群れを熊手で殴りつけている。やるじゃないか。やっちまえ!手を貸しても?二人は周りに肉塊と内臓しか残らなくなるまで感染者を相手にがむしゃらに戦う。

 

オーバーベックは女性を見つめる。彼女は彼の方へと歩み寄る。悪くないわね、おじいさん。ゾーイよ。地球最後の女。そうじゃなくとも、そう感じるわ。彼女は笑うと、悪臭を放つ肉塊を腕から拭い取る。オーバーベックはベトナムで出会った少年を思い出す。力強い笑み、非常にひょうきんで...非常に勇敢…彼女と同じように。

記憶777

ねえ!誰かいないの!?手を貸してほしいの!感染者の不快な呻き声の中に、助けを求める声がビルの耳に届く。

 

感染者に満ち溢れた混乱の中心にケージを見つけた。ライフルを掴むと、感染者の頭をスイカのように撃ち砕く。ケージに近寄ると、ゾーイと血に覆われた男が中にいた。猛火から抜け出したと思ったらケージの中だ。男は自虐的に笑う。一体どうすればこんなクソみたいな状況になるんだ?

 

男はため息をつく。お小言はやめて、出してくれ。ゾーイは辺りを見回す。何かがおかしい。彼女の直感は鋭い。ビルも何かの違和感に気づく。男はケージに拳を叩きつける。奴らが戻ってくるまえにさっさと出せ!ビルはライフルを振り上げ、グリップで南京錠を叩き落とす。メリークリスマス、小僧。男は薄ら笑いを浮かべる。面白いジョークだ、ジジイ。そして俺は小僧じゃない。フランシスだ。フランシスはメリークソッタレたクリスマス...と繰り返しながらケージから歩み出る。ビルは瓦礫の上に崩れ落ちた感染者の死体に唾を吐きかける。それは俺の決め台詞だ。ちがう台詞を探すんだな。フランシスの笑みがさらに広がる。

 

ビルは自分が何をしているのかがわかっている。彼らはグループであり、決め台詞の問題ではない。誰が主導権を握るかという問題だ。現実にはこのクソッタレた状況で誰にも主導権なんてない。誰もが何らかの方法で主導的に動かなければいけないのに、フランシスはそれが理解できるほど賢くない。何か馬鹿げた事態になる前に屈服させないといけないと考える。考えを正させなければならない。

 

ビルはフランシスの方へとにじり寄る。ゾーイはため息をつく。あなた達...くだらない決め台詞で争うのはやめて。突如、彼らの背後からカチッという音が聞こえ、ビルはマズい状況だと咄嗟に気づく。ケージから出たと思ったらまた猛火の中か。フランシスはため息をつく。クソ...カナダ人どもか。ビルは相手の方へ目をやる。間に合せの防護服とライフルを装備した者が何人かいる。俺たちはカナダ人じゃない。

 

さあ、歩け!ビルはゾーイとフランシスに鳴く。奴らは生存者だ。フランシスは顔をしかめる。それはどういう意味だ...カナダ人より酷いのか?ビルはどう答えればいいかわからない。カナダ人達と共に戦ったことがある。とても頼りになる兵士たちだった。カナダ人の何が問題なんだ?フランシスは肩をすくめる。逆に問題じゃないことはあるのか?

 

記憶778

間抜けな男がビルを間に合せの電撃棒のようなもので部屋へと押し込む。危ないだろうが、CEDAのクソッタレが!間抜けはビルを突くのをやめない。俺たちは、CEDAじゃない。

 

フランシスとゾーイと共に、ビルを部屋の角へと追いやる。オタクをPCに向かわせているのが見える。ハッキングするように指示しているが、オタクはできないと言っている。技術オタクだが、ハッカーではないのだ。何度か、試させた後、オタクは脇に押しやられた。

 

ガキが、と吐き捨てられる。ガキじゃなくてルイスだ、と反論すると銃を顔に突きつけられた。勇敢で反抗的なオタクだ。生存者達は何やらコソコソと相談をする。一人がノートPCの前に座り、ハッキングを試みる。ビルには会話の断片が聞こえる。PC内を調べて隠れ家の場所を見つけるんだ。インフルエンザは誰もが予測できぬほど速く広まった。隠れ家を用意した者達は、それを活用する前に感染してしまった。このクソッタレどもは昔の地下鉄のように、隠れ家をチェックポイントとして街から脱出するルートを探っている。これぞフィラデルフィアだ。俺達をどう利用するかなんていくらでも策があるんだろうな。

 

男の一人が独断で楽しもうとゾーイを掴む。拘束されながらも、ビルは彼女の隣へと飛び出す。その汚え手を離しやがれ。男はゾーイへとにじり寄ったところ、彼女に強烈な蹴りをお見舞いされる。一生忘れることはない痛みだろう。ビルはそのような叫びを上げられる人間がいるとは思っていなかった。男は目を見開き、ゾーイを睨みつけている。男は悪態のようなものを叫び続け、生殖腺を押さえながら膝に崩れ落ちる。仲間が走り寄ってくる。叫んでいる男を助け起こすが...男は異様な様相だ...非常に異様だ...目に何かが…いや、目から何かが欠けているのか。

 

やべえ。ルイスは男がウイルスそのものであるかのように後ろへ飛び退る。フランシスはパニックする。ここから出してくれ。ルイスは床のナイフを拾い、ビルを解放する。サバイバリスト達は顔面蒼白だ。ビルがゾーイを、ルイスがフランシスを解放する中、彼らは叫び声や怒鳴り声を上げる。

 

ビル達は後退りする。ゾーイは息を飲む。どうする?ビルは肩をすぼめ、ため息をつく。してやれることはない。感染者が突然ゾーイへと突進する。フランシスが頭を殴り飛ばした。

 

メリークリスマス!

 

ビルの反応を待つ。ビルはただ首を振り、不快な態度を示す。自分のセリフを見つけるんだな、ガキ。それだけの知能があればだが。フランシスは笑い飛ばす。ルイスはネクタイを直している。フランシスはうんざりした表情でルイスを突く。ネクタイなんて取っちまえ...そんなクソッタレたネクタイは。

 

ルイスはそれを無視する。ゾーイが男達に仕草でいい加減に黙って、彼女についてくるように指示する。腐った死体となれる島でも見つけてからネクタイについて議論したらいいじゃない?ビルは感銘を受けて目を見開く。世界が地獄と化する中で、島で腐り逝くなんていいじゃないか。

 

彼女の言う通りだ!
装備を整えてずらかろう!

記憶779

ビルは無事な者達に声を掛けながらもう見る影もない街中を先導して行く。インフルエンザはあまりにも速く何もかもを変化させてしまった。変化。彼は変化に驚かされることはなかった。彼の人生において一つだけ不変なもの。新たな"常識"の中で変化し生き抜くこと。

 

だがこの新たな“常識”には...順応するのに骨が折れそうだ。お互いをバラバラに引き千切りあって、また仲直りするとはいかない。間の中を見つめ、ここ数時間の出来事を思い起こす。何も受け入れられない。誰も何も受け入れられないが、もうとっくに受け入れていなければいけないのだ。

 

そして、現実を受け入れ始める...彼らには免疫があるのだ...無症状なのだ。彼らはインフルエンザをばら撒こうと待ち構えている時限爆弾なのだ。哀れな愚か者たち。ルイスがビルの隣に歩み寄る。今度は何だじいさん?

 

ビルは平静を保とうとする。じいさんと呼ぶな。ご老人ならいいが、じいさんはやめろ。ビルは歩みを進める。今度は何かって?教えてやる...隠れ家を見つけて少し休むんだ。だが休憩するのはお前がフランシスのクソを吐き出し続ける口をぶん殴ってからだな。ビルは笑う。冗談だガキ。だが笑えん冗談で苛ついてきているのはわかる。あいつの口車に乗せられるなよ。あいつはああでもしてないとこの状況に耐えられないんだ。ベトナムであいつみたいな知り合いがいた。死ぬのが怖いから他人に絡んで気を紛らそうとしてるのさ。だが本当にムカつくのは俺のセリフを取りやがったことだ

 

。ルイスは笑う。ビルは可笑しいとは思わない。わかってる、わかってる...真似というのは心の底からの称賛の証だ。だがあの市民風情が俺の決め台詞を取るのは駄目だ。そいつは許すわけにはいかない。

 

記憶780

隠れ家は放棄されているが、貴重な物資が豊富にある。この驚異的なインフルエンザは急速に広まり、誰にも閉じ籠もることを許さなかった。

 

ピルはため息をつく。ゾーイの主張通りに政府が未だに避難対策をしているなどと到底信じられない。世界は地獄と化し、政府は匙を投げているに違いない。しかしビルは何も言わない。滅びた街の深部を潜り抜ける中、希望を奪うなんてことはしたくない。

 

ビルはゾーイの島を見つけてそこで腐り果てていくという案の方が気に入っていた。ヤシの木があれば最高だ。しかし彼女が政府を頼りにしたいなら、そうすればいい。彼女の希望を奪うことはしない。しかしビルは政府のことを十分に知っている。今の政権は二度目のチャンスを与えるどころか思い直す余地すらないのだ。

 

しかし彼はまだ社会のシステムを信じている国民のために口を閉じる...インフルエンザ拡大の遥か昔に壊れてしまったシステムだ。それに、彼女が政府を信じている間に彼は何か打開策を閃くことができるだろう。

 

いつものように。ゾーイは彼を見つめる。私たちのような人達がもっといるはずよ...防衛されている区域があるはず…隔離区域があるはず。あらゆる都市がこんな状態だなんて有り得ないわ。

 

ビルは出かかった皮肉を押し止める。ゾーイのどこかに敬意を感じずにはいられない。彼女は誰か古い知り合いを思い起こさせる。かつての自分だ。多くの発想や理想を持つ者。政府の...そして人間性の真実を知るまでは彼もそうだったのだ...それを彼女の中に見出だせることは嬉しい。非常に嬉しい。この地獄がそれを彼女の中から叩き出すことなく、いたき続けることができるようにと願う。強い風が嘆きの声を上げながら襲いかかり、嫌というほど嗅いだ匂いを運んでくる。

 

腐敗の匂い…
破れの匂い...
死の匂いだ。

 

感染者達。大量にいる。数百はいるかもしれない。ビルは本能のままに動く。

 

警戒しろ!
銃を構えろ!

 

それ以上を口にする前に感染者が迫って来た。死の街の中に銃声がこだまする。傷んで、腐りきったメロンのように頭が割れ、周囲に死体が散乱する。感染者が一人、影からビル目掛けて飛び出してきた。躇することなくフランシスはその顔を吹き飛ばし、ビルの方へと向き直る。

 

メリークリスマス!

 

ビルは深く溜め息をつく。クソ野郎に命を救われてしまった。そしてその事実を突きつけられている。フランシスに不機嫌そうな老人の顔を向ける。わかったよ…その台詞はくれてやる、サンタさん。さあ、黙って撃て!ビルは弾む息の下で悪態をき、深い橙色の夕暮れの中を突進してくる黒い人影に向け撃ち続ける。クソッ、失敗した。

 

以上【学術書Ⅶ】で解放されるビルの物語でした。