本日は学術書Ⅴで解放される、神聖なる疫病【日記と回想】についてのご紹介となります。ブライト(ヴィゴ)を追う謎の人物のお話です。
神聖なる疫病・日記と回想
ブライト(ヴィゴ)の背中を追う謎の人物の物語です。
1.夜
私が見た恐ろしい光景を説明するのは不可能だ。死、そして悲劇があらゆる恐怖となり、この場所を支配している。
どうやってここへ来たのかさえ、もう思い出せない。覚えているのはぼんやりとした乳白色のアヘンの煙が、陰気な洞窟の甘美で心地良い深淵を覆い隠していたことだけ。
この永遠に続く夜に、酷い悪臭のする液体が漏れ出す老木の下で、私は恐ろしい叫び声に目を覚ました。どうやってこの哀れな魂に触れればよいのかも、自分がそうしたいのかも分からない。この状況を理解するためにできるのは、記録を残すことだけだ。
2.ヴィゴ
怪物から逃げる最中に、隠された研究所を発見した。普通ではあり得ないほどの物資が残っていた。私はアルカロイドの棚、木箱に入った銀色の注射器の数々、防護服の山、そして「ヴィゴ」という署名がされた日記を調べた。日記には、この場所の自然を支配し、悲劇を生み出す古代の力についてメモが書かれていた。また、私が木で見た肥大する潰瘍のスケッチも書いてあった。
3.疫病
私は取り憑かれたようにヴィゴの日記を解読している。ヴィゴの手記は優雅だが奇矯で、様々な分野からまとまりなく曖昧な結論を引き出している。
ほとんどの項目で、年に1度浄化が起こるというエンティティという強力な存在が言及されている。この時期、エンティティは疫病に冒される。ヴィゴによれば、潰瘍は成熟してパチュラという腐敗した花蜜を出す、一種の花になるのだとい」う。私が見た、木から滴り落ちる粘液のことだろう。日記の最後のページには、花蜜から精製される漿液について書いてあるが、その効果と調合法の詳細が書かれているページは破れていた。
4.負傷
森の鬱蒼とした一帯に身を隠しながら、自分の心に刻まれた不穏な記憶を消そうと必死になっている。昨夜、恐ろしい機械仕掛けの口を持つ醜い男が研究所に押し入ってきて、壁をズタズタに引き裂いた。命からがら逃げ出したのはいいが、その時に腕を負傷してしまった。
選択肢は残されていない。どこへ逃げても怪物どもは私を見つける。私に残されているのは、脱出のかすかな希望が書かれた日記だけだ。
研究所に戻ってやる。
5.実験
死が迫っているのを感じる。
研究所に戻ると、腐敗した花蜜の実験を始め、悪臭を放つ漿液を精製した。だが、私は大きな過ちを犯した。死んで瞳孔の開いたげっ歯類にその漿液を注射すると、死体が震えたのだ。私はそれを抑えようとしたが、そいつに腕を噛まれ、裂傷が開いた。
出血は止まったが、傷を負ったことが恐ろしい。
6.実験その2
地下室から聞こえるおぞましい叫び声と酷い吐き気で目を覚ます。この恐ろしい」試練を振り返り、自分に起きたことを整理し始める。
腐敗した漿液に汚され、私の傷はリンパ液で腫れ上がった。その時、あの襲撃者」が戻ってきた。戦いの記憶はおぼろげだが、奴の顔を引っ掻くと、赤い涙がその男の不気味ないを伝わったことは覚えている。その後私は敵を蹴り、男は吹き飛びレンガの壁に激突した。その時に感じた力については...言葉が見つからない。分かるのは、ヴィゴの手法には真実が含まれているということだ。
また叫び声が聞こえる。鎖で地下室に拘束した襲撃者が、暴れているのは間違い」ないだろう。
これははじまりに過ぎない
7.ピーク
投与した液体の有効性を考えれば、奴の逃亡は想定しておくべきだったが、それでも私は結果を知る必要があった。
現在、パチュラの花は研究所への道に咲きほこっている。ヴィゴの日記によれば、急速な拡散は疫病がピークに達している徴候だという。
じきに腐敗した花蜜を抽出することもできなくなってしまうだろう。
8.消耗
ほとんど眠れなかった。傷が激しくうずくせいで気が張り詰め、まどろみを超えられない。もう我慢する気力も残っていないが、苦しみのせいで残酷な方法が頭に浮かんでくる。
越えてはならない一線など私には存在しない。
9.不安
休息は、折に触れて数分ずつ取るだけだった。時間を無駄にする余裕はない。花蜜でみずみずしかったパチュラは、腐敗の木の根元で枯れつつあり、しなびた花、から数滴の花蜜を抽出するのが精一杯だった。
私にはもう時間がない。
10.終局
ヴィゴの予測によれば、今夜が最後のチャンスだ。
私は漿液の最後のしずくで注射器を満たし、自分の腕に注射した。
11.終焉
私はすべてを正しく行い...そして失敗した。
私はこの忌々しい場所で身動きが取れなくなり、漿液も、隠れる場所もなくなった。
12.ヴィゴ
私はヴィゴを探した。周囲を徘徊する化け物にも気を留めず、その名前を叫んだ。彼が必要だった...頭のキャンバスに荒いエッチングを描き、心を月に集中すると...なにかがおかしくなった。
私は、枕の下の死んだげっ歯類に餌をやった。
13.祈り
もうすぐ、あと少しで私に平和が訪れる。
冷たい死の爪がにじり寄ってくる。
ーー
来た。
エンティティが来た。
私を見つけたのだ。