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【DbD】デイビッド・キングの過去が描かれた「アーカイブストーリー(背景)」を見てみよう「学術書11-献身」

キング「アーカイブストーリー」

 

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こんにちわ。きまぐれです。当ブログでは、DbD(デッドバイデイライト)に関する情報をお届けしています。初心者さん向けに分かりやすく。を心掛けております。どうぞよろしくお願いいたします。(※総プレイ時間約3000時間程度の若輩者です)

 

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きまぐれ

本日は「学術書11」で解放される「デイビッド・キング」の過去が描かれた背景ストーリーのご紹介です。

 

【アーカイブストーリー】デイビッド・キング「キングでいることの大切さ」


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「聞き流しでサクッと見たいっ!」って方はこちら。音声&字幕付きの動画になります。ラジオ感覚でお楽しみください!

記憶384

古いパブでは酔っ払い達の怒声や笑い声が響き渡っている。常連客はエールを飲んだりダーツをしたりバーカウンターの上に設置された薄型テレビでサッカーの観戦をしたりしている。

デイビッドは一人カウンターで堅い木のスツールに座っていた。頭の中ですでにジャスミンの姿を思い描いてる。金髪で青い目をした彼女が短いスカートを履いてアパートの部屋から出てくる様子を...そしてバニラソウの香りを漂わせながらかつて母親がキッチンで見ていた。白黒映画に出てきそうな気の利いた冗談を口にする姿彼女の存在は、丸ごと映画から飛び出してきたようなものだ!父の気に入りそうな女性像の要素を全て持ちつつ、それだけにとどまらない。

もうすぐ予定されている親父の退職祝いに連れて行くのに申し分ない女性だ!間違いなく注目を集めるだろうし父は得意になるだろう。

デイビットは今日のビールを勢いよく飲み下しその苦さに顔をしかめながらカウンターの金属部分にパイントグラスを乱暴に置く。首や肩の辺りがまだ強張っている感じがして初デートを無事に終えるためにも人との交流を慣らしておこうと考えた。

パーティーの前に全てを台無しにすることだけはどうしても避けたいデイビッドは、バーを見回すと古くからの友人であるリックに向かって身振りで合図する。空のグラスをスライドさせ軽く頷いて酒の補充を促すと、突然体の左側に鋭い痛みが走った泡立った黄金色の酒が溢れ出るパイントグラスを持ってリックが戻る。とデイビットはそれをひったくるようにして中身を口にして顔をしかめる。苦いのは当然としてもここまでの苦みを感じるのはおかしい...彼は大きく腕を振ってリックにこちらに来るよう合図すると身を乗り出す。

くそマズすぎて内臓が悲鳴をあげてやがる!誰かがバスタブいっぱいのロバの小便の中で屁をこいたみたいな味だ!どっかのエンジンの中身でも入れてんじゃねえのか!?本物の酒なのかよ!?

本物の酒だよ!

デイビッド...

正真正銘のドックみたいな味がするんだったら自分を痛めつけてまで飲まなきゃいいだけだろうよ。デイビットはまたしても体の左側が引っ張られるような感覚に襲われる。彼は一生懸命盲腸は左側だったか右側だったかを思い出そうとする。確信が持てないしどうでもよかった。いずれにせよ腹も胸も全体的に痛かったので、虫垂胃が破裂するほうがましだ!中には体にいい毒もあるんだよ。

リックはその意見には反対だと言わんばかりに首を横に振って見せた。俺なら酒を控えるね。彼女の前で醜態を晒したくなければな...

あの子何て名前だっけ?

ジャスミンだ!

酔っぱらったファンがデイヴィッドに近づいてくる。

おい!
見ろよ!

こいつは驚きだ。
天下のデイビッドキング様じゃないか!
俺たちの席に来いよ!
一緒に飲もうぜ!

男を無視してデイビットは頭上のサッカー中継に視線を移す。今は一人でいたいんだ。また今度にしてくれ...

連れないこと言うなよ!
ちょっとくらいファンにサービスしてくれよ!

デイビットはリックと顔を見合わせたまま横にいる酔っ払いの無礼者には目をくれずにいる。誘ってくれてありがたいんだが、ちょっとここのところ色々あってな...だから一人にしておいてくれないか?頼むよ...

酔っぱらったファンがデイビットの肩をジャブ突く。どうしても聞きたいことがあるんだよ。あの審判に何を言われてあそこまでブチ切れたんだ?

耳にくそでも詰まってんのか?あっち行けって言ってんだよ!

ファンは再びデイビットをジャブで突く。

デイビッドはその指をつかんだかと思うと、そのまま関節が曲がる方向とは逆に折りロバの小便をもう一口喉に流し込んだ。その横では痛みに悶えるファンの男が膝をついた状態で抗議の叫び声を上げている。リックは素早く大男に合図を送ると本格的な大騒ぎに発展する前に、酔っぱらったファンとその取り巻きたちを店の外に追い出させた。そしてデイヴィッドに向かって被りを振る。

こんなことばかりしているといつかやばいやつに喧嘩を売る羽目になっちまうぞ!俺はやつにはっきりと一人になりたいと言ったぜ!もっと他に伝える方法があったろうに...何か別のことが気に触ったのか?俺がヤツの指をへし折った!それ以上でも以下でもない。

リックが眉間にしわを寄せる。考えてみたら話してくれたことなかったよな。

何をだ?

あの審判と何があった?デイビットは肩をすくめ首を横に振った。あいつがタイミング悪く言っちゃいけない言葉を口にしたもんだから俺も切れて暴れた。ってだけの話だ。もうどうでもいいんだよ。ああ…確かに…心底どうでもいいですって面してるよデイビッドは皮肉を言われてため息をつく。

グラスの中身をきれいに飲み干している間、リックの視点はずっと外れないままだった。言っただろう...どうでもいいことだ。なるほど...秘密主義ってやつか。何でもなさそうな面の下にどんな深い事情を隠していることやらなあ...

キングさんよ...
とんでもなく謎めいているお前とはもう十六年の付き合いだが、未だに知らないことばっかりだ…そのうちに話してもらうぜ!リックは空のグラスを掴むとその場から立ち去った。

記憶385

デイビッドはビールを一杯飲み干すたびに唇や舌がどんどん重くなっていくのを感じていた。新調した白いシャツ変えたばかりのコロン、そして新しくできた友人ジャスミンのことを繰り返し自慢している。有名なカメラマンが噴水の近くで彼女を撮影していた時に出会ったこと、その美貌を一目見て目に焼き付けようとみんなが立ち止まっていたことをリックに話して聞かせる。

デイビッドはリックの同調を期待して彼の顔を見るが、親切心から頷いているだけであると察する。お前もあの場で彼女を見ていたらわかるさ。男はどいつも彼女に釘付けだった。

ビキニ姿の彼女が夏の日差しをいっぱいに浴びてさ。どの男もみんな彼女を見てたよ。だけど彼女が見てたのは俺だった。

その話...もう何回も繰り返してるぞそうだったか?もはや自慢してるっていうより信じて欲しがってるみたいだぜ!

デイビッドは顔をしかめしばらくの間じっと宙を見つめた。ポケットに手を突っ込むと古いメモを繋ぎとめている丈夫なテープの感触がする。信じてほしがってなんかねぇ!俺に信じて欲しがってるとは言ってないぜ!じゃあ誰にだ?問題はそこだよな。訳が分かんねぇ!何が問題なんだよ?回りくどい言い方はよせ!デイブ…お前こそ回りくどいのはよしたらどうだ!?

うちのパブに来てどこぞのエロ雑誌が飛びつきそうな、スーパーモデルの話だの武勇伝だのを語ってよ!それは確かにお前の話は面白いよ。お前のことをよく知らない間柄だったら俺も信じただろうさ...

デイビッドは顔をしかめそっぽを向いた。お前はここでこうして口では幸せを語っているが、実際にはそうやって顔をしかめて知らないやつの指を折ったりしている。のっけから最初に絡んできたやつをぶっ飛ばす気満々でな。お前の人生を生きづらくしてるのは他ならぬお前自身なんじゃないのか?

あんな風に人の腕をジャブで突く方がどうかしてるだろう...非常識だ!自分が幸せだと思い込みたいならそれもお前の勝手だ!だがな俺に言わせればお前はマンチェスタ一1惨めなろくでなしだよ。俺にとっちゃそんなお前でも大事なダチだ!ごまかされたふりをしてやれる程無関心ではいられない。

ほら出た...また俺の精神分析か...どうせくだらねぇ本に出てきた、誰も知らねー歴史上の人物にでも例えるつもりだろう。

リックが頭を振る。ほら出たまた人のまじめな話をないがしろにする気だな。友達が友達の心配してるだけだってのに...

ほら出たよお決まりのメロドラマみたいな展開だ。その友達は酒を飲みに来てるだけなんだぜ。なぁデイブその子は確かにいい女なんだろうけど、俺の言いたいことは分かってるだろう...やめとけ...行くな...約束なんざすっぽかして、お前が本当にやりたいことをやれ!

適当なこと言ってんじゃねえよ!リックが身を乗り出してデイビッドに顔を近づける。俺は本気で言ってるんだぜ!デイブ!お前のポケットに入ってるメモくらい大真面目さほら...お前が時々読み返してるあのメモだよ!誰にも気付かれてないと思ってたのか?デイビッドは身を引いてリックと距離をとる。てめぇには関係ない話だ!痛いところをつかれたんだろう。デイビッドはグラスの中身を飲み干すと、口を拭いおぼつかない足取りでスツールから立ち上がる。

余計なお世話だ!そうして彼は酔っぱらった常連客や分厚い木製の出入り口を押しのけるようにしてその場を後にした。体制を崩してよろめきながら涼しく移らな夏の夜へと足を踏み入れた

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足を引きずりながらハブ横の裏路地を歩いていたデビッドは、誰かに付けられている気配を察知する。振り返るとそこには恨みを募らせたあのファンとまぬけづらをした取り巻き連中の姿があった。彼らはデイビッドに向かって怒鳴ったり嘲笑や罵声を浴びせたりしている。デイビッドにとってはどれも支離滅裂な言葉にしか聞こえない。だが雰囲気や大まかな意図を理解できた。指を折られたファンの男がデイビッドに近づく。

みんなに覚えてもらっているだけでもありがたく思えよ!この人間のクズが!お前ごときが世間から忘れられずにいるのは、たった一度の短気で全てのキャリアを棒に振ったからだ!

デイビッドは頭に血が上るのを感じた。自分がすでに連続でパンチを繰り出していることに気づいた時にはもう遅かった。拳についた血を拭おうと動きを止めた瞬間、取り巻きのひとりが体当たりしてきて暗い路地裏に押し込まれた。また別の取り巻きが大声をあげながら突進してくると今度はレンガ造りの壁に叩きつけられた。デイビッドは壁を蹴って体勢を立て直し、二人を大型のゴミ収集箱の中に押し込む。そのまま体の向きを変えるともう一人の取り巻きを殴り飛ばし、そいつはその場で鈍い音を立てて地面に横たわった。さらにもう数人が襲いかかってきたが、デイビッド一歩も引かず攻撃に耐えながら相手が倒れるまで痛め付けた。

デイビッドが倒した取り巻きたちを見下ろしながら、自分の強さに感心していたところに突如何者かに背中を蹴られた。よろめいた隙に首に腕が巻き付き大蛇のごとくデイビッドを締め上げる。視界がかすむ中取り巻きたちが入れ替わり立ち替わり腹や顔を殴ったり蹴ったりする様子が見えた。

蛇から解放されたデイビッドは側溝に倒れ込んだ。両目はテニスボールのように腫れ上がり鼻血が出ていて歯を一本飲み込んでしまったのがわかる。デイビッドは路地裏から通行人のいる歩道まで這っていった。誰も彼の存在には気付かない様子だ。デイビッドは仰向けになり壊れた街灯の遥か高みで微かに光る星々を見つめた。吐かなくて良かった...と思いつつ、だがよくよく考えてみたらデイビッドはこれまで一度も吐いたことがなかった。酒を飲んでも試合の直前であっても家族の集まりに出向く前でさえも...

 

 

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デイビッドには周囲を通り過ぎる歩行者たちの足がほとんど見えなかった。人々の囁き声...話し声...笑い声などが聞こえたものの、彼に近づくにつれて皆黙り込んでしまった。

一度か二度くらい助けを呼ぼうかと小声で訪ねられたが、そんな声すらもすぐに遠ざかり結局は誰にも助けられることはなかった。どのみちデイビッドは助けなど求めてはいなかった。ひたすら弱々しく霞む星々を見上げながら、もし自分が両親と全く同じ道を歩めていたならどんな人生を送っていただろうか?と考える。

だがそこでデイヴィッドは気が付く。両親の歩んだ人生がどういう意味を持つのか分からない。両親という人間の本性を知らないのだ。社会的地位や上辺といった一部しか知らない。そんなものはでたらめだだが、2人が本当はどんな人間なのか、どんな秘密や事情あるいは依存性を抱えているのかについては何も知らない。

デイビッドが暗い空を見つめていると、1人の女性が夫に向かって歩道の上でボロボロになって血を流している哀れな男を心底心配している声が聞こえてきた。2人分の影が彼を気遣うように覗き込んでくるのがおぼろげながら見える。もう二言三言何かをささやいたかと思うと、彼らは急かされるようにその場から立ち去っていった。

デイビッドはある日スタジアムで、心臓発作を起こして死んだ男の話を霞がかった頭で思い出していた。誰一人として電話を強く握りしめた状態で倒れている男の様子を確認しようと立ち止まらず、声を掛けなかったせいだ!誰か一人でも通報していればその男は助かっていたかもしれない。

少し前にリックから聞いた話だ!いつどんな状況で聞いたのかこそ覚えてはいないが友人や客から、この手のどうでもいい話を世間話で再利用するためにやたらと仕入れている。デイビッドはしばし目を閉じた...深く息を吸い込んで夜風に舞う柔らかい花びらを思わせるフローラル系コロンの香りを堪能した。鼻がまだ機能していることがありがたい。それに心臓が外に蹴り出されたような感覚はあるが心臓発作を起こしていない。

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デイビッドは隣で誰かが横になっている気配を感じて、お前がここで夜風を楽しんでるって話を聞いてな!それがリックの声だとデイビッドは気づいているが何も答えない。

いい夜だな...こんな夜を迎えたのは多分人生初だ!デビットはため息をつく。

あっち行けよ...
頼むから…

リックはその言葉を無視する。少しばかり背中が痛むが、星を眺めていると帳消しになるように思える。

頼むよ...
あの雲を見ろ!

時期に嵐が来る。楽しめるのは今のうちだ!デビットはリックの方に顔を向けると、腫れ上がったまぶたの狭い隙間から彼を見つめる。だが言葉は一言も発しない。

実はサメよりもココナッツの方が多くの人間を殺してるって知ってたか!?何年も連れ添ったある夫婦の話を聞いて調べてみたんだ。ある奥さんがバカンス先で旦那に海に入って欲しがっていたの。だが旦那はどうしても怖がって入ってくれない。サメに食われるのはごめんだ!って言ってな。

二人は二十年も同じ場所を訪れていたのに、旦那は一度も海に入ったことがなかったんだ。ある日奥さんが60歳の誕生日を迎えた時、旦那が海に入る決意をした!奥さんはそれを喜んで旦那の方も楽しみにしていた。なのにいざ海岸に出た時旦那の頭にココナッツが落ちてきた。そして彼はその場で死んでしまった...

この出来事は奥さんの記憶に大きく残ると思うだろう?彼女は何年もうちに通ってくれてる常連だけどな、1度だってココナッツの話なんかしたことがないんだ…この話は別の誰かに聞いたのさ。その奥さんは他の思い出なら何でも話してくれたが、この話だけは口にしたことがない。

俺はそんな彼女に嫉妬してたよ。愛する相手が誰かを明確に分かっている人間は世界で一番幸せだからだ!心が折れる荒野でどんな強者よりも強い人間だよ。

デイビッドは咳払いをする。そんな話で俺を励ましてるつもりなのか?お前を励ますつもりなんてねえよ!俺はお前が羨ましいって言ってんだよ!ジャスミンや他のやつらは関係ない。

ほら出た!また思い込みで分かった風な口を利く。お前のことなら分かってるさ。愛がどういうものかも知ってる。そしてそれは少なくとも無駄遣いして良いものじゃない!俺たちの誰もが最終的にココナッツで命を落とす宿命にあるとしてもだ。

デイビッドは目を閉じる。リックが穏やかに笑っている。あの奥さんの話で立派な映画が1本できそうだ!ココナッツのエンディングさえなければな。そこは多分変えないと駄目だろう...デイビッドは深い溜息をつき、喉に何かが詰まったような小さな声でリックに懇願する。

一人にしてくれ...
もういいから...
一人にしてくれ...

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デイビッドが腫れた目を再び開けると、リックがこちらをじっと見ていた。

すごいですね。何年か前にぱったり店に来なくなってしまった常連がいてよ。後になって彼女は刑務所に入ってたことを知ったんだよ!信じられないよな。刑務所だぞ!人を殺したんだってさ!痴情のもつれってやつだ。

旦那が他の女に惚れたことを知ってしまったらしい。彼女は旦那を田舎の別荘に誘い込み、睡眠薬を飲ませた後あらゆるドアや窓を板でふさいで旦那が眠っている間に家に火をつけた...

目を覚ました旦那はなんとか板張りを破って外に出ようとしただが、そこにハンマーを持った妻が待ち構えていた。男が燃えながら崩壊していく木材をよじ登ろうとしたその時

グシャ...グシャ...グシャ...
妻は夫の腕を...手を...肩を...ハンマーで潰した

旦那の動きを封じるまで残ったのは崩れた板の間に体をねじ込もうと必死の男と、その後ろから濃い黒煙が糖蜜のように注がれるという酷い光景だった。

妻はただ夫を見ていた。

血を流し...焼かれ...呼吸し...叫び懇願する夫の姿を...

警察が駆け付けるまで微動だにせずじっとな。

デイビッドは何も言わずリックから顔をそむける。その旦那は前にも浮気をしたことがあったが、その時は彼女も気に留めてなかった。今度は別の女を愛してしまった。これもいい映画になりそうだよな...妻が最後に夫を殺さず夫のほうも中年期に少し道を誤ったくらいで収まれば。の話だけどさ...

俺はこいつのためなら人を殺せるとか、死ねるとか思える相手に出会ったことはないが

時々それがどんなものなのか考えることはある。そんな行動に出られるほど誰かを想うってのが、どんな感じなんだろうってな...

デイビッドはリックの視線がこちらに向けられたのを感じた。一番長く付き合った相手で一年ってとこかな。我が強過ぎて相手に歩み寄ることを知らない。と言われたよ。

その通りだ!だが歩み寄りたいと思える相手に出会ってない。というのもある。デイビッドは近くを通り過ぎていく歩行者の足音に耳を澄ませた。

これもまた客に聞いた話なんだが、オオカミは群れかつがいだけで移動するんだってさつがい同士の絆が物凄く強いらしいんだ。だから片方が死んじまうともう片方もすぐ死ぬんだと。まるでいつでも好きなときに命を終わらせられるスイッチがあるみたいに、一つの魂を追ってもう一つの魂が、死後の世界に旅立つってわけさ。お前がそういうものを信じてるかは知らんが。デイビッドがリックの方に顔を向ける。

もう勘弁してくれ!
話したい気分じゃないんだ!

それじゃあもう一つだけ話をさせてくれ!これが終わったら一人にしてやる。

100年前こんな話が決して語り継がれることのなかった時代にあった実話だ。二人がどうやって出会ったのかは覚えてないがリチャードとビルは初めてお互いを見た瞬間から恋に落ちた。二人は互いへの気持ちを誰にも話すことはなかった。当時はほら...絞首刑になるだろう。みんなと同じような恋愛をしないとさ...

デイビッドは頭にうっすらと血が上るのを感じだ。二人はひっそりと愛を育んでいたが最後には捕まってしまった。処刑人の前では多くの人間が嘘をついたり激しく震えたりしたもんだが、この二人は自分の気持ちに嘘をつくことを拒んだ。お互いへの思いを決して否定しようとしなかったんだ。縄を首に巻かれて最後にもう一度だけ会心の機会を与えられたが二人はそうしなかった。恐怖の代わりに愛だけが彼らを満たしていたからだ。

ウィルがリチャードの手をつかんでキスをすると、同時に処刑人が2人の足場となっていた荷車を引く。恋人たちが絞首台からつられている姿を想像してデイビッドは腫れ上がった目から涙を流した。何か言葉を発ししようとしたが見えない縄で首を絞められ窒息させられているような感覚がする。まるで何かが胸の内を吐露することを邪魔しているみたい。

これもいい映画になりそうだよな。デイビッドは唇を震わせた。言いたいことがたくさんあるのにどうしても言葉が出てこない。泥でできた世界の深いところまでどんどん沈んでいってるような気がした。痛みを抑圧しようとすると顔がこわばり体全体が震え始めた。

戦いに敗北したデビットは酸素を求めて喘ぎ、意味のない言葉を連発しながら一生懸命呼吸を整えた。やがてリックがデイビッドの腕をつかんで支えた。あまりにも多くのものを失い忘れてしまった声にこれ以上沈んでしまわないように引き止め踏みとどまらせるために。

 

 

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彼のどんなところが良かったんだ?デイビッドはその質問にどう答えたものか悩む。考えがまとまるまで少しの時間を要した。一つに絞るのは難しいな...色んなものの積み重ねでとにかくあいつといるのが心地良かった。他のやつらといる時は本当の自分とは違う。別の俺を演じなきゃいけない気になるが、あいつといる時だけは違ったんだ。

やっぱり報道されていることは嘘だったんだな。俺の両親はお互いを蛇蝎のごとく嫌っている。さっさと離婚してれば良かったのに、なぜかせっせと芝居を続け裏では別の人生を生きている。多分それが普通なんだろう。それでうまくいく夫婦もいるだろう。

あいつに会いたい。一緒に過ごした時間が恋しいよ。あいつと会った日のことはまるで昨日のことのように思い出せる。一緒にいるだけで悟ったよ。こいつは特別だってすぐにわかった。きっと俺の人生で大事な存在になるんだって。

出会いは音楽合宿だった。その時俺は七歳で合宿に行くのを嫌がってたんだ。でも皮肉だよな。母親が無理やり行かせたおかげで俺たちは出会った訳だから。おふくろがきっかけってことだ。

俺は楽器が全く弾けなかった。だけどトリスタン...トリスタンは別格だった。あいつのピアノを聞くのが好きだった。最初はお袋も喜んでたよ。俺に音楽仲間ができたってな。俺も将来バイオリニストにでもなれるかもって。

だがどうやら...俺自身が気づくより早くおふくろの方が何かを察知したらしくてな...いきなりあいつが家に遊びに来ることを禁じたんだ。あいつがいやしい家柄の人間だとかって言い訳を聞かされて。そこからまたいつもの話さ…キング家の人間であることの責任を問かれる。

一族の世間体だとか...
キングの名が持つ力だとか...
俺がどんな重責を担っているかとか...
家族のための犠牲だとか...

くだらないことを永遠と言って聞かせるのさ。だが結局そういう話を通して母親が何を伝えたいのかを、具体的に語ってもらったことはない。いつも肝心なところははぐらかしてたよ。

デイビッドが笑う。最終的にトリスタンとは中学でばったり再会してさ!人生何があるかわからないものだと思ったよ。よくメモを渡されたっけ。

引用文だったり
詩だったり...
ことわざだったり

何かと利口ぶったコメントをよこして、俺を笑わせてくれたものさ。内緒でまた付き合うようになってそのまま何年も恋人の関係を続けた。

俺の両親に自分を紹介してほしいとあいつが言い出すまでは...

できなかった

それからは俺があいつを振ったり、あいつが俺を振ったりを馬鹿みたいに繰り返した。去年になっていよいよあいつは身を固めたいと言ってきた。家庭とか子供の話をするようになったんだ。その思いに堪えてもいいような気がしたが。結局そうしなかった。これから関係を終わらせて。あいつの心を傷付けた...あいつは納得しなかった。腹を立ててパブで開かれていた、俺の誕生日パーティに現れたよ!何の連絡もなしに突然な...そして華麗なるギャッツビーさながらの祝辞を述べた。

そこまでやってあいつは戸惑いの表情を見せた。俺は彼が何をしようとしているのか、何を言おうとしているのか分かってた。だが...あいつは最終的に思いとどまった。代わりに俺が最高のダチだ!とだけ言ってかしこぶった冗談を交えながら、俺を女好きの色男だと言って一生落ち着くことはないだろうってな!

目には涙を浮かべてたよ。そして、こう締めくくった!

偉大なるキングの名に乾杯!
生意気なやつめ!
そしてみんながその言葉に乾杯した!

俺の親父も含めて。キングは笑ったがすぐに止んだ。トリスタンがテーブルに古いメモを残してビールグラスを持ったままよろめきながらその場を後にしたからだ。かつて英文学の授業中に担当の教師が理不尽な解釈であいつのお気に入りの作家を酷評していた時に回してきたやつだ。

何日か前あいつから連絡があった。ゴールドランタンカフェでやるパーティーに

誘われたんだ。今夜開催の送別会だ。って言ってた。ニューヨークへ行くんだと。向こうでピアノの演奏会をやるらしい。最近会ったばかりの男と一緒に行くと言ってた。一ヶ月程度の付き合いでろくにお互いを知りもしないくせに、相手の男はあいつのニューヨーク行きに着いて行くらしい!

そんなバカな話があるかよ!

リックは何も言わずしばしデイビッドと共に、弱々しく光る星を見つめた。腫れ上がったまぶたの間の狭い隙間からは静かな涙が流れ落ちていた。デイビッドは咳払いをするとそれを腕で拭い去った。

もうやめてしまおうと思ったことはないのか?

リックがデイヴィッドの方に顔を向ける。何かを止めるにはまずその何かを始めてないといけないわけだが。俺の考えはこうだ。お前は常にライオンであり続けた。いじめっ子やクソ野郎や、虐待するようなやつをやっつけて回ってよ。初めて会った時からお前のそういうところをずっと尊敬してる。邪魔するやつは誰だろうと徹底的にぶちのめしてきた。

だが自分自身だけが倒せない。思うにこれからはお前という存在を一から築いて、成長させて育てていくべきなんじゃないのか?

リックがデイビッドの腕をぐっとつかむ。

お前はライオンだ!こんなことを言ったら気分を悪くするとは思うが、縄で繋がれてピエロの格好をさせられた、サーカスのライオンなんだよ!お前が本当はどんな人間なのかを知りたければ、自分の爪と牙でその縄を引きちぎり衣装を切り裂いて見せろ!

辞めるんならな輪っかの間をジャンプで通り抜けるのを止めろ!ピエロのまねごとをやめて、本来やるべきお前というライオンの姿を取り戻せ!このままじゃ一生引きずるほどの後悔をする羽目になるかもしれないんだぞ!お前が一番よくわかってるはずだ!

デイビッドは宙を見つめる...

リックが再びデイビッドの腕を掴む。

俺は思うぜ。誰かさんにお返しの祝辞を述べてやるべきだってな!今から行ってあいつの送別会に押しかけろってのか!?

バカだろお前!
バカはお前だ!
さっさと行きな!

記憶391

デイビッドは全速力で通りを駆け抜け、人を押しのけながらカフェ店内に足を踏み入れた。室内を見回したがトリスタンどころかパーティが開かれている様子すらない。デイビッドが部屋の向こう側にいるウェイトレスに、大きな声でトリスタンの行方を尋ねると、すでに空港に向かったという。とんでもない返事が返ってきた。

ウェイトレスの言葉に。デイビッドはまるで横面を叩かれたかのような衝撃を受ける。

遅すぎた...

全てが手のひらからこぼれ落ちていく。デイビッドはなんとか自分を落ち着かせると、急いで通りに出るや荒々しいまでの大声でタクシーを呼び止めようとする。一台が歩道の縁石沿いに止まった。運転手はデイヴィッドの顔に一瞬戸惑った様子を見せるが、メーターを回しアクセルを踏む。気付くとデイビッドは高速でハイウェイを走る車中でトリスタンにどんな言葉をかけるべきかと、予行演習を重ねていた。様々なアイデアや言葉をひねり出してはみるものの、そのどれもが全くと言っていいほどしっしっくりこない。

タクシーが空港に到着し自動開閉式のガラス扉に横付けするが早いか、デイビッドは車から飛び出す。ドライバーの怒鳴り声がしたので一旦戻って乗車料金を払うと、今度こそデイヴィッドは大急ぎで自動ドアの向こうの活気に満ちた広い空間に足を踏み入れた。

ところが警備員に進路を阻まれてしまう。搭乗券がないと通れませんよ。デイビッドは男の顔をじっと見つめたまま呼吸を整えながら、頭の中ですばやく状況を整理した。事情を説明してみせたが、目の前の人でなしの態度にはほんのわずかな情報も見られない。デイビッドは方向転換してチェックインカウンターに急ぐ。ニューヨーク行きの便のビジネスクラスの航空券を購入すると来た道を戻ってセキュリティを通り抜けた。

どんどん走る速度を上げていくと、いよいよ目的地が近づいてきた。

やってやる!
絶対にやり遂げてみせる!

そう思った矢先、デイビッドはカートで荷物を運んでいた、年配の男性に勢いよくぶつかってしまう。ゴマ塩頭とくっきりした顎が特徴的でどことなく父に似ていた。床に転がりながらデイビッドは拳で殴られたような恐怖に襲われた。

一瞬...息が止まるほどの驚きが彼を襲う。

ほんの一瞬だけの恐怖...

混乱の中デイビッドはトリスタンのメモが床に落ちてしまったことに気づく。回収したそれをぎゅっと握りしめ書いてあることを記憶した。先ほどの男性がデイヴィッドに向かって「気をつけろ!」と怒鳴っているが、今はこれっぽっちも相手をしている余裕はない。

メモをポケットにしまうと荷物の山に登り、ものすごい速さでその場を後にした。程なくしてゲートが見えてきた。そこにはトリスタンの姿もある。彼はパートナーと笑い合っていた。幸せそうだデイビッドはそれ以上進めず。固まってしまう。まるで煉瓦の壁に押しつぶされているかのような、罪悪感が重くのしかかってくる。内臓が押されているような締め上げられているような感じがして、とんでもない形に変わっていく感覚がする。

急に全てが高速で回転して見える。デイビッドは悟った。吐きそうだ。デイビッドはきびすを返し、片手で口を押さえながらトイレへと急いだ。そして個室の一つに駆け込み

胃の中を空にした。それから足を引きずってそこから出ると、顔についた汚れを洗い落とす。「自分はこの世で最も自己中心的な人物なのではないか」という疑念が押し寄せる。腫れてボコボコの顔をがっくりさせながら突然ある考えが頭をよぎった。

トリスタンを愛しているのなら、もし本当にトリスタンを愛しているのなら、このまま行かせてやるべきだと。酔っ払っていたところリックにそそのかされたんだ!今回のことは全てそれに尽きる。今デイヴィッドがすべきことはトリスタンの幸せを喜ぶ以外にない。彼の幸せを祝福し、家に帰って眠りにつき、この目まぐるしい夜を忘れてしまえばいいのだ

 

 

記憶392

デイビッドは頭の中が激しく混乱した状態で、72番ゲートを後にした。頭がまともに働いていないのは自分でも分かっていたし、自分のような面倒な男のもとにトリスタンを引き戻すのはあまりにも身勝手だと思った。こうなったのは自業自得であり、受け入れるよりほかないのだ。

やがてセキュリティゲート付近まで戻ってくる。心臓が悪い癖のようにぎゅっと締め付けられる。ピクリとも動くことができない。疑念や罪悪感や恐怖よりもずっと大きな何かがこれ以上進むことを阻んでいるかのようだ。

デイビッドはポケットに手を突っ込み、中に入れているメモを何度もひっくり返した。すると一瞬にして炎が燃え上がるように、これまでの二人の苦悩が細部に至るまで鮮明に蘇ってきた。このまま相手を行かせるなんて冗談じゃない!これまでの人生で唯一安らぎを与えてくれたあの声...唯一喜びを感じさせてくれたあの映画...彼が息をしているだけで生きる力がみなぎるというのに、彼の発する言葉の一つ一つが自分をより高みへと導いてくれるというのに、やるべき事もやらずに帰れるわけがなかった。

最後の最後に2人のためなら何でもする覚悟があることを彼に示せないまま、この場を去るなんてできない。このチャンスを無駄にしたら結果は永遠にわからずじまいだ!後悔に押し潰されて二度と立ち上がれなくなるだろう。トリスタンがいるからデイビッドは生きていられたし、自分の存在を実感することができた。他にそんな風に思わせてくれる人間は誰一人としていなかった。

すると突如デイビットの中に火が灯った。方向転換をした彼は思いっきり走り出す!

何を言えばいいんだ?
何かしらの言葉を伝えろ!
なんだっていい!

心に浮かんだものをそのまま口にすれば良い例えばそうだ!あいつの大好きな映画の中で言っていた、あの三つの単語はどうだろう...デイビットの全身にまるで稲妻に打たれたかのように力が戻る。

より速く...
より強く...

自信すら生まれていた。何を言うべきかも何をするべきかもわからないのに、デビットはただひたすら走り続け、やがてその走りがよろめきながらの疾走になった頃、パートナーと一緒にいるトリスタンの姿が見えてきた。もう搭乗してしまうデイビッドは声にならない叫び声を上げながら、体勢を崩し顔面から床に転倒してしまう。

デイビッド...
君なのか...

トリスタンがデイビットの手を掴んで助け起こす。デイビッドは姿勢をただし可能な限り身だしなみを整えてみせた。ひどい顔をしていることは分かっているし、エールと吐瀉物とコロンが混ざった悪臭を漂わせていることも分かっている。きっと花壇で嘔吐したような臭いをさせているに違いない。自分でも分かってる。

だが手の震えを止めようとしているうちに、今自分がどんな風に見えているのか、どんな匂いをさせているのかなと考えなくなった。深く吸い込んだ息を吐き自分の気を落ち着かせた。

そして手を伸ばすとトリスタンの手を強く握った。言葉が詰まって出てこない。喉の奥でセメントでも固まっているかのようだ!気の利いた言葉も知的な言葉も何一つとして思い浮かばない。例の映画のセリフを思い出そうとしたが、それもうまくいかなかった...

トリスタンのパートナーが一歩踏み出すが、トリスタンが彼を手で制止するとデイビッドと共に端へ寄った。

どうしたんだ?
デイビッド?
一体何があったんだ?

デビットはトリスタンに彼がかけがえのない人物であることを伝えたかった。愛していることを告げたかった。代わりに出てきた言葉は「もう嘘はやめた」

トリスタンはその言葉をゆっくりと復唱し、意味を理解しようと努めた。デイビッドは小声で何度もそれを繰り返しながら、今か今かとトリスタンの言葉を待った。どんな言葉でもよかった。トリスタンは何も言わず涙で目を霞ませた。

そして次の瞬間、喜びと悲しみと深い混乱が入り乱れた表情を見せた。

記憶393

雨が降る暗い夜空の下、デイビッドはよろめきながら見知らぬ通りを歩いていた。ずぶ濡れで寒さに震えながら、うろ覚えの民謡を口ずさむ。おとぎ話のような幸せな結末などこれっぽっちも期待していなかったし、当然トリスタンにも色々考える時間が必要なのは分かっていた。

どれくらい待てばいいのだろうか?

あまり長くないことを願いたかった。飛行機から降りて電話越しにただ一言言ってくれるだけでよかった。君の望み通りに…今になって思い出した。肝心な時に出てこなかったくせに今頃になって...

デイビッドは薄ら笑いを浮かべた。そんなことはどうでもいいと。こんなに気分がいいのは生まれて初めてだった。とても自由で大きな幸せに満たされている感じがする。デイビットはそよ風のように全身を駆け巡る感覚をかみしめた。まるで生まれ変わったかあるいは初めて自分自身の人生を生きたような感覚。

この夜を迎えるまでの彼は、人生を恐怖に支配されそれ以外の自己認識をほとんど持たない。ダンボールを切り抜いた人形と同然だったのだ。デイビッドの願いはトリスタンを乗せた飛行機が着陸し、彼から連絡がくる事だ。

「次の便に乗って会いに来て欲しい」

と、それも財布が見つからなければ話にならない。そんなのはどうでもいいことか。空港から徒歩で帰路についたのなら、池を泳いで渡ることだってできるはず。デイビッドはそんな自分を笑うと財布などどこかからひょっこり出てくるものだと考え直した。いつもと同じように。

だがもし、もう終わり...だと告げられたら自分で自分の考えに不意をつかれる。きっとそっちだ!現実の世界で愛が勝ったためしなどない。人はいつだって恐怖に負けてしまう。おとぎ話が描かれ続けるのもそういうことだ。あれは実生活で無限に襲いかかってくる失望や苦悩から逃げるための現実逃避なのだ!

自分で思うほど自分の持っている愛は強くない。仮に彼から連絡があったとして、それは終わりを告げる電話だ!別れを告げる電話なのだ!一度心を傷つけられた相手に二度も心を許したりしないだろう。そんな考えを打ち消すようにデイビッドの歌う声がどんどん大きくなる。やがて見覚えのある公園に出たところでそれが止む。そこはかつてベンチに座ってトリスタンと暇な一日人間観察をしていた公園に似ていた。

ゲートをくぐると一瞬トリスタンが一緒に歌っているような声が聞こえてきた。デイビッドは歌うのを止めて周囲を見回す。だが横殴りの雨が作り出す厚いベールの向こうには誰もいない。雨が打ちつけ水が滴る暑い林間の下で、まどろむ茂みや頭を垂れた花々の間をデイビットをひたすら歩き続ける。どこからともなく穏やかな囁きが聴こえて足を止める。

もう嘘はやめだ...

デイビッドはそちらに顔を向ける。

トリスタン...?

デイビットは腫れた目を擦りながら、目の前のありえない光景をじっと見据えた。トリスタンが笑う。あんな風に決め台詞を台無しにしてしまえるのは君くらいだよ。

嘘だろ...?
こんな...
ありえない...

デイヴィッドは目を凝らして、トリスタンのシルエットを見つめる。どうにかして飛行機から降りたのだろうか?それとも初めから乗らなかったのか?デビットには何が起きているのか理解できなかった。だがせっかく訪れた幸運を深く詮索している場合ではなかった。

デイヴィッドはトリスタンを抱きしめようと駆け寄ったが、彼が触れた途端トリスタンは枯れた花の如く散ってしまった。

「ハッ」と息を飲むと、デイビッドは膝をついて必死で宙を舞う花びらを掴もうとした。それは手の中で溶けて指の間をすり抜け、濃さを増す霧の中へと消えていった。何が起きているのか理解するまもなく、全方向から泥濘や水たまりを踏みつける足音が聞こえてきた。

ゆっくり見上げるとそこには、これまでデイビットが倒してきたいじめっ子や虐待の加害者やクズ共がこちらに向かってきている。反射的に自分をつねって見せたが状況には少しの変化もない。デイビッドは諦めたと言わんばかりの深いため息を吐くと、立ち上がって顎を上げ戦いにその身を投じた。体当たりをし腕を大きく振り蹴りを食らわせていくうちにその場で立っているのは、デイヴィッド一人になった。そして蛇のように絡みつく黒い霧が愛の光の届かない暗闇の世界へと彼を引きずり込んでいた。

 

 

デイビッド・キング「固有パーク」

パーク名 解放レベル 優先度
ずっと一緒だ 30 ★★★☆☆
弱音はナシだ 35 ★★☆☆☆
デッドハード 40 ★★★★★