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【DbD】『レイス』アーカイブ物語-果てしない夜の代数「学術書Ⅳ」【デッドバイデイライト】

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レイス

デボアチャレンジを何とか達成できたので、レイスの物語を解放する事が出来ました!
やったぜ!お時間ございます時にお読み頂ければ思います。

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きまぐれ

本日は「学術書Ⅳ-信念」で解放される「レイス(フィリップオジョモ)」の物語のお話をご紹介していきたいと思います。

 

 

【DbD】『レイス』アーカイブ物語-果てしない夜の代数「学術書Ⅳ」【デッドバイデイライト】

記憶656

少年は幸運の鐘を握り締めて暮れゆく空を見つめる。

夜が来る。

化け物を引き連れて。

焚き火を囲みながら父から聞いた物語のどんな化け物より恐ろしいものだ。絶え間ない大虐殺の噂に少年は恐怖し、母と父が早く帰ってくるように願った。

両親は隠れている者は安全が保証されるとのラジオ放送を聴き、他の者たちと調査に出かけて行った。少年は一日中、村の外へと伸びる砂利道を見つめ、両親たちの帰りを待って過ごした。

何人かが重傷を負って戻ってきた。口々に恐ろしい出来事を語る。

死。

破壊。

暴力。

少年はそのどれも理解することができなかった。あいつらは僕らを憎んでいる。

なぜ?なぜあいつらは僕らを憎んでいるの?ラジオやテレビが憎めと言うからだ。僕が何をしたって言うの?お前は新たに建国されたナイジェリアに生まれた。それがお前の罪だ。北方に生まれたからだ。

祖母が少年に近寄ってくる。何かが見えたかい?フィリップは首を振る。何かが見えたら...危険が見えたら...父さんの鐘を鳴らして他の子たちと隠れるんだよ。フィリップは頷き、鈴を見つめる。

父さんたちは帰って来るの?祖母は長い間沈黙する。私は...私は帰って来ないと思っているよフィリップ。

二人は隠れているんだ。小さな藁ぶき屋根の家へと消えていく祖母を見つめるフィリップの目から涙が溢れる。頬を流れる涙を感じた。彼は理解した。

理解したのだ...二度と両親には会えないことを。

記憶657

祖母のアビゲイルはもう何日も笑っていない。酷い肉の腐敗臭が村に流れ込んだ。祖母はフィリップに、牛の死体の匂いだと言う。フィリップは頷くが、理解している。祖母は残酷な真実から彼を守ろうとしているのだ。

井戸の周りでの老人たちの会話を聞いた。何人も死んだ...そして調査が入る前に死体を燃やしているのだ。誰が燃やしているのか?討伐部隊・処刑人たちだ。フィリップたちを有害なゴキブリかのように、駆除するために雇われている者たちだ。金と引き換えに魂を悪魔に売った者たち。フィリップはやつらを憎んだ。

寝ようとしたが、寝つけない。ただ、扉を見つめることしかできない。両親が帰って来るのを願いながら。しかし彼は理解している...両親は二度と帰って来ない。もう彼には祖母のアビしかいないのだ。


アビは隣に寄り添い嘘をつく。フィリップは祖母に頭をもたげて涙を流す。祖母が何かを言おうと口を開ける音を聞いたが...何も言葉は出て来なかった。目を開けると、祖母は音もなく頬を濡らしていた。

フィリップが何かを言おうとしたその時、鐘が鳴った。顔が強張る。祖母に腕を掴まれ、外の壕に連れ出される。壕の中にも、くぐもった殺戮の音が地を伝って来る。フィリップはアビに抱きかかえられながら身をよじる。

泣き声や叫び声が耐え難き地獄のように沁み込んで来る中、アビはさらに強くフィリップを抱きしめる。フィリップは、人間があのような音を出すことを知らなかった。自分自身が叫ばないようにするだけで精一杯だ。彼がまた身をよじると、アビは念のためにとフィリップの口を塞ぐのだった。

 

 

記憶658

沈黙。恐ろしい、心が張り裂けそうな沈黙。

フィリップは間に合わせの壕の中で不快そうに体の向きを変え、耳を澄ます...何か聞こえないかと耳を澄ます。アビが肘で突いてくる。算数をやってみようフィリップ。算数?アビは外の地獄からフィリップの意識を逸らそうとしている。

6足す24引く8。フィリップは解いてみる。22だ。アビは微笑み頷く。彼女はその後も次々と問題を出してくる。フィリップは目に涙を浮かべながら答える。アビが顔に触れる。外で何が起きたかを考えないで...私の言うことを聞いて問題を解くの。フィリップは頷き、問題を解こうと努力する...

しかし母と...父のことを考えずにはいられない。両親は算数は頭を良くしてくれると言っていた。学校の成績が良くなると父にはなかった機会を沢山フィリップにくれるのだと。

父さん...二度と一緒に算数を勉強できない...二度とチェスで遊べない...お話も聴かせてもらえない...それはなぜ?金のために悪魔の所業を成す者たちのせいだ。


アビが肘で突いてくる。フィリップがもう一度問題を言ってと頼むと、幼児の泣き声が沈黙を裂いた。フィリップは瞬時に祖母の方を見る。祖母は目を見開くと、梯子の方へと立ち上がった。フィリップは駆け寄り腕を掴む。

行かないで...お願い...お願い...祖母はためらい、壕の蓋を見上げる。あの子を外に放ってはおけないわ。フィリップは頷きながらも、シワの寄った柔らかい手を永遠に握っていたいと思う。しかしその手を離すと、アビが勇敢にも梯子を登り、灼熱の日光の中へと出て行くのを見守った。

記憶659

数時間?数日?数週間?祖母が他の者たちと同様にいなくなってしまったという真実から目を背けるために、頭の中で算数の問題を繰り返し説きながらも、壕の蓋からは目を離さなかった。

祖母の声、笑い、ため息が聞こえる。また会いたい。両親にまた会いたい。友達や隣人に会いたい。皆に会いたい。だが彼は知っている...もうあの頃の生活は戻らない。もう皆に会えないのなら死んだ方がましだ。彼は目を閉じ、凍える夜の中へと登っていった。

すぐさま死体の腐臭が鼻を衝く。轢かれて何日も放置された動物の死骸のようだ...ただ...それよりよっぽど酷い匂い...月明かりに照らされた地面を見回すと、焼け焦げた死体の傍に父の鐘を見つけた。

何が起きたの?あなたは見張っていてのではないの?報せてくれるはずだったでしょう?フィリップはかすれた囁き声で祖母を呼んだ。しかしその囁き声は鳴り止まぬ叫びへと変わる。声が枯れるまで叫んだ。しかし返って来るのは寒い夜の無関心な沈黙だけだ。

フィリップは膝へと崩れ落ち、指で鐘に触れる。この悪夢のような現実から消え去ってしまいたい。

記憶660

どの村も同じ光景だ。死と破壊。焼け焦げた車、家、そして死体。消えることのない霧と煙の中に、人々が溶け込んでしまったようだ。もう動くことができない。その力も意志もない。煙が目に染みる。呼吸するたびに腐臭が吐き気を催す。

だが何よりも耐え難いのが...沈黙だ。恐ろしき沈黙。過酷で、不快で、無関心な沈黙。

彼は屈み、木の傍に座り込む。頭上ではハゲワシが飛び回っている。彼が死ぬのを待っている。焦げたものや、灯油にまみれた死体ではなく、新鮮な肉を欲しているのだ。

彼は目を閉じ、一瞬意識が遠くへと飛んだ。遠く、遠くへ。

しかし程なくして声が聞こえた...母の声に似ている...目を開けると、そこには女性と泥だらけの子供たちが彼を見つめていた。その母親が手を差し伸べる。一緒に来るのよ。フィリップは答えない。答えられない。口の中に熱も水分も感じられない。喉は砂のようだ。目はタールのようだ。

女性は彼に瓶を手渡した。フィリップは水など飲んだことがないかのように喉を鳴らした。女性はフナニャと名乗った。そしてフィリップに一緒に来るようにと言った。もう逃げたくない...死にたい...その母親は手を伸ばしたままでこう言う。だからこそ生きなくて、はならないのよ...皆に何が起きたのかを伝えなくてはならない...証人になるの…フィリップは女性の背後にいる一人の少年と二人の少女を見つめる。

彼はフナニャの手を取る。そして彼らは共に、重い足取りで深い霧と煙の中へと歩いて行った。消え去ることを拒否しながら。

記憶661

フィリップは討伐隊により荒らされた家へと入った。壁には血飛沫、そしていつもの強い匂いが残っている。フィリップは家主たちに何が起きたのかを考えたくない。一瞬、歩み寄って来る母が見えた。だがすぐに消えてしまい、フナニャの姿に変わる。

彼女はいくつか学校用品を見つけて来た。絵を描いたら気が紛れるかもしれないわ。フィリップは頭を振る。絵を描きたくないし、算数もやりたくない。何もしたくない。ただこの悪夢から目を覚ましたいだけ。

フィリップはもう一人の少年・エメカを見つめる。彼は自分の村の絵を描いている。使える色は、沢山あるのに、黒しか使わない。フナニャには何故なのかがわからないが、他の色に興味を示さない...色が分からなくなったのかのようだ。

フィリップは彩りのない村の絵を見つめ、ニッキとチカが見張っている外へと出る。父の幸運の鐘を見せてあげたが、もう幸運などではないと考えてしまう。彼はそれをニッキへと渡すと、使い方を説明する。何か見えたらすぐに鳴らすようにと。

 

 

記憶662

灯油の匂いは大嫌いだ。フナニャは頷き、フィリップに同意する。灯油そのものではないが、それに思い起こされるものすべてだ。ニッキはフナニャを見上げ、なぜ討伐隊はすべて燃やしてしまうのかを質問する。フナニャはそれに答えない。答えを知らないのかもしれない。

フィリップはフナニャへと向き直る。あいつらは証拠を燃やしているんだ。ニッキとチカはフナニャを見つめる。フナニャは頷く。フィリップは祖母の言葉を思い出す。死と破壊は、人の皮を被った悪魔の商売なんだよ。

フィリップは歯軋りで声なき声に答えた。やつらは全員死ぬべきだ...人殺しに金を払うやつらと、金をもらうやつら全員...フナニャは彼を見つめる。フィリップ・そんなことを言ってはだめよ...やつらは人権を奪おうとしている。でもそれは私たちが負けを認めなければ奪うことはできないものよ。


フィリップは自分の顔が強張るのを感じる。説教なんていらない。家族を返してくれ。やつらの行いは罰せられなければならない。フナニャはフィリップの肩に手を置いた。生き抜いて証人となれるように、慈悲の天使に祈りましょう。

フィリップは深くなる夜を見上げる。そんなことをするぐらいならば、死の天使に祈りを捧げてやつらが苦しむのを見たい。赦す者は赦された者となる?赦すことなどできない!やつらが憎い!どうして金のためにあんなことができるのか?正義は執行されるわ、フィリップ。やつらは罪から逃れることはできない。フィリップは何も言わない。

金を持った者たち、討伐隊を雇って大量の灯油を買えるほどの金を持った者たちは、どんな罪を犯しても許されると父は言っていた。大量殺戮であっても。フィリップもそれを信じている。いくらでも慈悲のために祈ればいいさ。

僕は復讐のために祈りを捧げる。

記憶663

殺人により利益を得る者たちは動物以下だ。金のためにそんな恐ろしいことをする者たちがいるだなんて、その考えが頭を離れない。これを生き延びることができたなら...この灼熱の地獄から逃げることができたなら...復讐を果たしてやる。

この暗い感情をフナニャに打ち明けずにはいられない。彼女は「目には目を」では何も解決しないと言う。「目には目を」では世界中の人々が何も見えなくなり、全員が永遠の夜に包まれてしまう。世界中の人々が何も見えなくなる?すでに見えていないじゃないか。僕たちがどんな目に遭っているのか、目て見ぬふりをしている世界だなんてクソくらえだ。

世界は無関心だ。この混乱と破壊は、起きるべくして起きた。この国の豊かな資源を支配し、奪い、分配するための方程式。老人たちがそう言うのを数えきれないほど聞いてきた。

フナニャは亡くなった指導者たちの思慮深い言葉をフィリップに教える。フィリップは復讐のことを話すのをやめた。一瞬、彼女が正しいのではないかと思う。復讐は何も解決しないのかもしれない。いつの日か、世界はまどろむ無関心から目を覚まし、フィリップたちを助けてくれるかもしれない。

記憶664

暗い夜の中、ニッキはフィリップに鐘を返す。討伐隊が来ないかを見張るのは彼の番だ。しかし彼は何日も寝ていなく、目蓋が石のようだ。鐘を胸の近くに抱き、締め、一瞬、ほんの一瞬目を閉じる。

1分だけだ。彼は朝の熱でハッと起きる。嫌な予感がする。彼は飛び起きると、新たな友人たちを探す。

身体の破片を見つける...これは...誰のだろう...わからない。何かが唸っているのが聞こえる。辺りを探すと見つけた...死んではいないが...死にゆく...フナニャを...身体のあらゆる場所が切り裂かれている...苦痛で吐いている...何か金色の物で覆われている...蜂蜜だ...やつらは彼女を蜂蜜まみれにしたんだ...無数の黒く小さい何かが傷口から滴る金色と赤い液体の中を泳ぎ、溺れ、食らっている。


蟻は彼女の皮膚の下に潜り込み、生きたまま彼女を食らっていた。フィリップは屈み、それを跳ね退けようとするが、もうどうしようもない。全体に広がっている。

フナニャは喋ろうとするがその口からは呻き声と血がこぼれるだけだった。舌がない。ガラガラとおぞましい音が漏れるだけだった。フィリップは彼女の前に跪く。何を言えばいいのか、どうすればいいのかわからない。

寝てしまったんだ...ごめんなさい...本当にごめんなさい...しかし謝っても彼女の傷が癒えるわけではない。謝っても蟻は追い払えないし、彼女が守っていた子供たちも帰っては来ない。フナニャは力を振り絞り、土に指で何かをなぞった。私は赦す。


フィリップはその文字を長い間見つめた。フナニャの顔の方に手をかざし、音もなく涙をこぼした。彼女は目を閉じ、苦しみが終わるのを待っている。

フィリップはやりたくない。でもやらなくてはならない。やらなくてはならないと理解しているのだ。彼は手を下げ、フナニャの口と鼻を覆う。そして一瞬、その一瞬だけは彼女の慈悲の天使となった。

 

 

記憶665

暗闇の中、フィリップはまた滅ぼされた村へと辿り着いた。男たちの集団がいる...討伐隊だ。フナニャを手にかけた者たちかもしれない。祖母を...両親を殺したやつらかもしれない。

人を消すことで金を受け取るような悪魔には地獄ですら、生温い。やつらは焚き火で何かを焼いている。笑いながら冗談を飛ばしている。殺した者たちを食い物にしている。やつらは殺した者どもがまるで動物だったと話している。

フィリップはこんな非道を見たことがなかった。人間性のない犬。それがやつらだ。犬。野犬。それ以上でもそれ以下でもない。何か太古からのものがフィリップを手繰り寄せる。

彼を包み込む闇を、若く純粋な心を捕らえようと異界から伸びる触手のように感じた。でも最早若くもないし純粋でもない。フナニャの声が聞こえる。赦す者は赦された者となる。


しかしフィリップは赦したくもないし、赦されたくもない。やつらを皆と同じように苦しめてやりたい。彼からすべてを奪い去ったやつらを苦しめてやりたい。暗い復讐心から彼を引き戻そうと、無数の算数の問題を出す祖母の声が聞こえる。しかしその声も彼の怨嗟の怒り狂う鼓動にかき消されてしまう。方程式や問題を唱える祖母の声は叫び声に変わる。だがフィリップは男たちを睨みつける。灯油が身体中を駆け巡るのを感じる。爆発してしまいそうだ。

目には目を。世界には永遠の夜を。いいじゃないか。


フィリップは車の傍に銃が置いてあることに気付く。それで全員を撃ち殺すのもいいだろう。でも銃は使ったことがないし、逃げてしまうかもしれない。ナイフかマチェーテはないか...しかしこの犬どもには力では敵わないだろう...

ただ立ち去れ、フィリップ。振り返るな。生き延びて証人となることがお前の責務だ。彼は頭の中の声を無視し、ただ一つだけを願う。やつらを苦しめて、消してやりたい。

彼は...そうだ...灯油を奪い、友人や家族にされたことと同じ方法で苦しめて消してやりたい。煙の渦の中で。

そして一瞬...

ほんの一瞬...

彼は終わらぬ夜に襲い掛かる死の天使となった。