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ここでは、学術書15で解放されるアーカム邸「絶対にゾッとする狂った人形劇」の物語になります。
アーカム邸「絶対にゾッとする狂った人形劇」【学術書15】
赤鶴物語。 死の庭園を抜けて-1。
咲は月明りと影が水たまりを描く森を駆け抜けていた。歩を緩めるようモーリスに
合図をし、目の前に現れた奇妙な街を見つめる。それは巨大なツタと光を放つ大き
な花に覆われている。街の狭い通りをモーリスが慎重に足を進めていく。咲は彼の
たてがみを引っ張り、その足を止めた。警戒しながら建物の様子を険しい表情でう
かがう。何も見つからない。彼女が再び歩を進めようとしたその時、霧の中から囁
き声と物音が混ざった不思議な音が聞こえてきた。咲にはその音の意味が分からな
かったが、子供のころ耳にしたような気がした。
なんて奇妙な場所だろう···
この巨大なツタはなに?
あの不思議な音は何だったの…?
その答えは咲には分からなかった。分かるはずがなかった。自分を取り囲む悪夢
は、言葉や道理、理解を越える存在だ。理解できないものを理解しようとすること
は、とうの昔に止めていた。
モーリスがいなないた。彼女には彼の「言葉」が理解できる。「この場所は気に入
らない」と彼は言った。「さっさと出ていこう」どうして自分には馬の言葉が分か
るのか、その理由も深く考えようとはしなかった。ただ、たとえ馬であっても、話
し相手がいることが彼女には有難かった。
咲はうなずき、街の向こうに見える山並みを指した。
「あの丘に避難しよう。さぁ...」
そのとき突然、爆発音が彼女の声をかき消した。球状の花が突然破裂してキラキラ
と光る噴霧へと姿を変え、巨大なツタが咲の身体を激しく叩きつけた!そして、別
のツタがごう音を立てながら現れ、彼女をモーリスから叩き落とした!
無数のツタがあちこちから攻撃してくる。咲はとっさに後ずさる。そして甲高い音
とともに刀を引き抜き、身体を回転させながら周囲のツタを切り去った。彼女が最
後のツタを切り落としたとき、助けを求める声が耳に入った。
咲が振り返ると、ツタがモーリスを暗闇に引きずり込もうとしている。必死に逃げ
ようとする彼の蹄は宙をかき回し、その頭は前後に激しく揺れ動いている。
咲は大急ぎでモーリスの元へ駆け寄ろうとした。しかし、またもや奇妙な音がその
足を止めた。それは、大勢の足音と金属がカチャカチャ鳴る音だった。
咲がゆっくり振り返ると、深い霧が生き物のように迫ってくる。そして渦巻く霧の
中から、鎧に身を包んだ戦士のゾンビたちが姿を現わした。見覚えのある光景だ。
咲は、モーリスのほうに戦士たちを向かわせまいと、月明りに浮かび上がる山に向
かって駆け出した。
赤鶴物語。 死の庭園を抜けて-2。
咲はゴツゴツした山道を駆け上りながら、ゾンビの大群から身を隠せるような洞窟
や穴を探した。彼女は、自分が黒蛇会が仕掛けた罠に掛かったのだと確信してい
た。黒蛇会は霧を操り、咲の記憶を逆手にとって彼女をおびき寄せたのだ。彼女は
故郷で黒蛇会のほとんどのメンバーを追い詰めて殺し、残りを追いかけている間に
この悪夢の世界に彼らもろとも飲み込まれていた。
咲は肩で息をしながら、底なしの崖の前で足を止めた。
行き止まりだ。
逃げる場所はない。
隠れる場所もない。
彼女は気を取り直すように、足元に限りなく広がる闇を見つめた。打ち勝つにはあ
まりにも敵の数が多すぎる。ここで死を迎えてもおかしくはない。
少なくとも、ゾンビの大群を自分に引き寄せることで、モーリスに生き残るチャン
スを与えられたことが救いだった。咲はモーリスがツタから抜け出し、彼女の代わ
りに黒蛇会の追跡を続けてくれることを願った。そして深呼吸をしながらゆっくり
と瞳を閉じ、迫りくる戦いを脳裏に描いた。
絶対にゾッとする狂った人形劇。ゲスト出演:アッシー・スラッシー-1
マハンは年の若い姪のヘイリーとその義理の兄のジェイデン、彼らの友だちのブラ
クを引き連れ、濃くなっていく霧の中を進んでいた。仲間を探すためだ。異なる世
界の出身者たちで構成された彼らの「寄せ集め隊」は、巨大な木製人形と遭遇した
際、仲間と生き別れになっていた。彼らは廃品置き場で、不気味な笑い声を上げる
人形に追われたのだ。マハンは繰り返し再生されるジングルベルの歌のように、そ
の笑い声を頭から振り払うことができずにいた。残りのメンバーがまだ生きている
のか彼には分からない。しかし、この果てしない闇のどこかに彼らが隠れているよ
うな気がしていた。
人形の笑い声は彼の頭の中で跳ね回り、脳みそに擦りついてくる。彼は背筋が寒く
なるのを感じ、思わず身震いした。恐ろしい幻覚や悪夢が目の前に現れるこの世界
でも、あれほど奇妙なものに出くわすとは思ってもいなかった。そして、死ぬまで
二度と人形に遭遇しなければ…そう、邪気に満ちた人形に遭遇しなければ幸運だろ
うと思った。
しかし次の瞬間、まるで悪夢が彼の心を読み取ったかのように、紫と黄色の奇妙な
ブースが霧の中から現れた。
マハンは、邪悪な人形のことを頭に浮かべていた自分を呪った。そして仲間に警戒
の合図を送ってから、大きな白い文字で書かれたサインを読み上げた。
「絶対にゾッとする狂った人形劇」!
人形・・・
忌々しい人形か!
彼は苛立ちを抑えながら、ブースを避けるよう仲間に合図した。すると突然、狂っ
たような笑い声が彼の耳を襲った。そして霧の中に雷のような拍手が鳴り響き、光
が当てられた幕に薄っすらと人の影が浮かび上がった。
「そこの肉人形たち、どこ行くんだ!?ショーは始まったばかりだぞ!」
絶対にゾッとする狂った人形劇。ゲスト出演:アッシー・スラッシー-2
マハンが目を凝らすと、そこには小さな人形が立っている。その髪は毛羽立った黒
髪で、ボタンのような黒い目には悪意が宿り、腕はチェーンソーだ。その人形は自
分が「史上最高の人形のアッシー・スラッシー」だと自己紹介した。
「俺の名前の元となったやつを見なかったか?」とアッシー・スラッシーは質問し
た。「あいつは俺に似てるけど、俺よりもずっとずっとバカなんだ。あいつが俺の
ために何かを壊してくれるのさ。たいしたことじゃないけどな」
誰も何も答えない。ぎこちなく張り詰めた沈黙が広がる。アッシーが狂ったように
笑ってからピタリと笑うのを止める。そしてまたケタケタと笑って、ぎこちなく笑
うのを止める。ジェイデンとブラクが顔を見合わせ、含み笑いをする。アッシーは
その膨れた黒い目でヘイリーを凝視した。
「人形ちゃん、お遊びの準備はできてるか?」
ヘイリーは顔をしかめた。「今のはいったいどういう意味?それに私を『人形』呼
ばわりしないで」
「それじゃあ、お嬢さん!どういう意味なのか、俺が見せてやろう!」
すると突然地面が揺れ、深い霧が立ち上って彼らを包み込んだ。拍手と歓声が沸き
上がって頂点に達すると、その音がピタッと止み、周囲には完全な暗闇と沈黙だけ
が残された。霧が晴れると、彼らは段ボールや画用紙やガムテープで作られた病棟
の中に立っていた。
マハンは目を大きく見開いてヘイリーとジェイデンとブラクの姿を見た。彼は目の
前で今起こったことを信じることができない。
自分の目に映った光景を信じることができない!
自分たちの体が縮んで...
人形の姿になっている!
マハンは人形になった自分の手を見つめ、深いため息をついた。理解できないこと
を理解しようとしても無駄だ。受け入れるしかない。彼が何か言おうとしたその
時、病棟内にチェーンソーの騒音と笑い声が響き渡った。
「準備はいいか!?よくなくても始めるぞ!まずその可愛い頬っぺたからだ!誰の
ことだか分かるよな・・・」
絶対にゾッとする狂った人形劇。ゲスト出演:アッシー・スラッシー-3
人形のマハンは段ボールでできた廊下を駆け抜け、病棟の車庫にたどり着いた。彼
はいったん立ち止まり、扉の上にあるサインを読んだ。「ここから脱出!」と書か
れている。
マハンが人形のジェイデンのほうを向くと、ジェイデンはさっき彼らが病棟で見つ
けた単3電池をマハンに手渡した。マハンは、ヘイリーに扉を押し上げるよう伝え
た。そしてその時ようやく、ブラクの姿が見えないことに気づいた。
「ブラクはどこだ?」
彼がそう聞いたとき、人形のブラクがよろよろと角から姿を現わし、助けを求めて
叫び声を上げた。そして彼らの目の前で、よろめく彼の身体がチェーンソーに引き
裂かれ、白い綿と赤い紙クズが噴き出した。
人形のマハンは手が震えて、電気パネルに電池をはめ込むことができない。彼がな
んとか電池をはめ込むと、人形のジェイデンがボタンを押して扉をアンロックし、
人形のヘイリーが扉を押し上げた。彼らの目の前で、ごう音とともに扉が開いてい
く。
「お嬢さん、どこに行く?ちょっとしたプレゼントがあるんだ!」
ヘイリーはアッシーのほうを向いた。「そういうのは好みじゃないの!」
「威勢がいいな!」
悪魔のような叫び声を上げながらアッシー・スラッシーが迫ってくる。人形の3人は
命からがら建物から抜け出し、壁のように立ち込める霧の中へ飛び込んだ。病棟に
拍手が沸き起こる。アッシーが非常口の扉に近づくと、その拍手が止む。彼は首を
横に振り、苛立ちのうなり声を上げた。そのうなり声が甲高い笑い声に変わる。
「まだ始まったばかりだが...ずいぶん、もったいぶるな!」
マハンは苦労して立ち上がると、ジェイデンとヘイリーが立ち上がるのを手伝っ
た。幸いにも3人は人間の姿に戻っている。彼は、あまり犠牲者を出さずに人形の世
界から抜け出せたことに感謝した。
一行は再び、残りの仲間を探すことにした。マハンは、巨大な木の人形のこと、い
や、どんな種類の人形のことも考えるのは止めようと思った。自分を取り囲む悪夢
に変な考えを持たせるのは避けた方がいいだろう。
記憶4011
ミンが行ったことのあるインターネットカフェの中で「パイナップル」は総合的に
見て悪くないほうだ。
ヘッドホンをしていても、隣の少年がたてるイビキが聞こえてくる。もう夜なの?
後ろのほうには窓がないから分からない。ミンは栄養ドリンクをもう一口飲んだ。
キーボードの横にある携帯がバイブ音を鳴らす。彼女はそれを無視して、自分の基
地に旗を立てた。画面いっぱいにバナーが表示される。彼女の勝利だ。
昔は勝つたびに、いい気分になったものだ。最近では、勝つことは当たり前になっ
てしまった。負けることは昔と変わらず嫌なものだ。それにしても自分はどうし
て、いつも負けているような気がするんだろう?
画面はロビーに戻り、次のマッチが始まるのを待っている。彼女の携帯が再びバイ
ブ音を鳴らす。その電話に出れば、なにを耳にするか彼女には分かっている。電話
の向こうでは彼女の父親が大声で怒鳴るだろう。そして彼女がいかに時間を無駄に
し、精神や人生を台無しにしているか嘆くだろう。そして、ミンの耳に入るように
母親が近くで泣いているかもしれない。
携帯の振動が止まった。最終的には家に帰らないといけない・・・遅くなれば、怒鳴り
1声がもっと大きくなるだろうし、もっとひどい事態になるかもしれない。こんなこ
と、ずっと続けてはいられない。
私は人生を無駄してなんかいない・・・ミンの画面がローディング画面に変わった。ゲ
ームは私の人生だもの。これみたいなMOBAをプレイして有名になる人だってたく
さんいるわ。それに私は誰にも負けないほどのスキルを持っている・・・有名プレイヤ
と私の違いは、プレイしている場所だけよ。彼らはスタジアムで、私は「パイナ
ップル」でってね。
ゲームが始まった。誰かが彼女の肩を叩いたが、ミンは無視してゲームを続ける。
邪魔しないで。今日は誰とも話したくない気分なの
また誰かが肩を叩いてくる。ミンは椅子を回転させて後ろを見た。
そこには自分と同い年ぐらいの少女が立っていた。カッコいいパーカーを着て、新
しくてきれいなスニーカーを履いている。少女はミンのことを真っ直ぐ見ている。
あなたのユーザー名は「shininglion」よね?ちょっと話があるの。
記憶196
父親は息子の手からクローハンマーを取った。使い方を見せてやろう。父親はクギ
抜きの部分が息子に見えるよう、ハンマーの向きを変えた。そしてそれをクギに当
てはめ、ハンマーの頭部を前後に揺り動かした。クギが簡単に抜き出される。てこ
の作用を使えばいいんだ。
今度はカレブが試してみる。すんなりとクギが抜けた。父親のほうを見てニヤリと
するカレブに父親はうなずいて返す。
でも、これはいったい何に使うんだい?
庭にいる動物を捕まえるんだ。
父親の顔が曇る。
こんなにたくさんのクギを使うのは少し残酷じゃないかい?
でも、捕まった動物を逃したくないんだ。
いいかい、これだけは覚えておくといい。何かを作るときは無駄を省くことが大切
だ。ある部分を省いても同じように機能するなら、最初からその部分は必要なかっ
たのさ。
でも・・・それじゃ、楽しみがなくなっちゃうんじゃない?
アーカス1278
「甘美なる暗黒」に関する奇妙なメモがまた玄関に残されていた。今回のメモには
「Z」とか「Zzl」とか「Zzlトリクス」という署名は入っていない。
今回のには「レディ・トリクス」と記されている。明らかに誰かが私を塔から引き離そうと躍起になっているが、どう対処したものだろう。とにかく、このメモは同じ筆者のものだろうから「マッドデザイナー」コレクションに追加しておこう。
~おしまい~
「絶対にゾッとする狂った人形劇」【学術書15】