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【DbD】ツインズの過去が描かれた「アーカイブストーリー(背景物語)」を見てみよう「永遠に一緒」

ツインズ「アーカイブストーリー」

 

こんにちわ。きまぐれ(@kimagure_DbD)です。
当ブログでは、DbD(デッドバイデイライト)に関する情報をお届けしています。初心者さん・中級者さん向けに分かりやすい解説を心掛けております。どうぞよろしくお願いいたします。(※総プレイ時間約3000時間程度の若輩者です)

 

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きまぐれ

本日は「学術書11」で解放される「ツインズ」の過去が描かれた背景ストーリー「永遠に一緒」のご紹介です。

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ツインズ固有パーク

パーク名 解放レベル 優先度
溜め込み屋 30 ★★☆☆☆
迫害 35 ★★★☆☆
とどめの一撃 40 ★★☆☆☆

 

ツインズの過去が描かれた「アーカイブストーリー(背景物語)」永遠に一緒


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音声の方が聞きやすいって方は、こちらでお楽しみください!全編字幕&音声付き動画になります!

永遠に一緒「記憶:6903」

一陣の風が森の木々の葉を揺らす。シャルロットは聖堂からできるだけ離れようと、西を目指していた。いくらか必需品を調達すれば、海岸に到達することができるかもしれない。いつか母から、海を渡って西へ...ここではない別の世界に行く夢を聞かされたことがあった。もしかしたら...シャルロットなら憎悪を募らせたこの地を離れて、新しい家を見つけられるかもしれない。


後ろで枝が折れる音がした。シャルロットは反射的にヴィクトルを胸に引き寄せると、そちらを振り返る。誰かがつけてきているのか?


シャルロットは先を急ぎ、やがて苔で覆われた丘にある村へと通じる、石の橋までやってきた。村に寄るのは危険が大きかったが、物資の補給をせねばならない。


シャルロットは、胴体に巻いたスカーフでヴィクトルを覆う。ヴィクトルは衰弱していて、動くことも、喋ることもままならない。あの黒マントたちが聖堂で、ヴィクトルに何をしたか....奴らはヴィクトルを変えてしまった。ヴィクトルに体力を取り戻してもらうためにも、食料と薬が必要だ。


村の狭い通りを歩いていくと、市場が見えてきた。行商人たちの店から必要なものを調達する方法は、母から教わっている。奴らの気を逸らして、運べる分だけ、を持って行く。そして、気づかれる前に、その場を立ち去る。安全第一ということだ...捕まったら、一巻の終わりなのだから。


薬草や軟膏を売っている行商人が、シャルロットの目に留まる。薬の確保は最優先だ。シャルロットは頭巾を被って顔を隠すと、ゆっくりと出店に近づいて行った。そして機が訪れるのを待つ。行商人が別の客を相手しようと背を向けたWに、シャルロットは品物に手を伸ばし、小瓶をいくつかひったくった。


次に、今の出店の裏にある果物の山が目に留まった。かなり危険だ...しかし、熱したリンゴの甘い香りにそそられる。シャルロットは、価格のことで口論をしている行商人のほうをちらりと見てから、しゃがんだ状態で、ゆっくりと男のそば、を通り過ぎた。


果物が入った籠に手を伸ばした時、その下に置いてあるものに目を奪われた。製されたチーズだ。シャルロットは大きな塊を掴むと、数個のリンゴとともに、それを鞄の中に押し込む。そして体勢を低くして出店の下を移動すると、来た道とは反対の方向へと出る。行商人は今、シャルロットの背後にいる状態だ。


急ぎ足で通りを下って行くと、物乞いたちがゴミを燃やしている場所に出た。ひどい臭いではあったが、火の温もりが心地良かった。


突如、何者かの手が、シャルロットの目に重くのしかかる。弓を持った背の高い男が、シャルロットを見下ろしていた。


顔には恐ろしい笑みを浮かべている。狩人たちがおまえの話をしていたぜ。おまえのおかげで、俺は金持ちになれる。


シャルロットが燃えるゴミの山を設とばすと、燃えさしが地面にぶち抜けられ、ワインでできた水溜まりに引火した。炎よりも早く、混乱のほうが人々の間に広まり、足で火を消そうとしている物乞いたちを、何人かの村人たちが押しのけていった。


騒動に乗じて、シャルロットは一目散にその場から逃げ出そうとした。ところが、恐ろしい形相をした村人に抱を掴まれ、一歩も動けなくなってしまった。動揺しつつ、シャルロットは鞄の紐を引きちぎり、その勢いで中身が地面に転がり落ちた。


その後、シャルロットは石の橋まで、全速力で駆けて行った。肩越しに村のほうを見ると黒い煙がうねっていた。シャルロットの胃が痛む。


一度だけ炎に焼かれた顔を見たことがあった。そして、頬が乾燥した葉のように、炭となっていくところも。


シャルロットはその記憶を抑圧するように、舌を噛んだ。もたもたしている暇は、ない。村人たちが追ってきているかもしれないのだ。


シャルロットは森を目指して走る。空気中から煙の臭いがなくなるまで、ひたすら走りつづける。

永遠に一緒「記憶:6904」

シャルロットは森の中のぬかるんだ場所に出た。このまま進めば、足跡が残ってしまう。今、そんな危険を冒すわけにはいかなかった。村人の誰かが彼女たちを追ってきているかもしれない。


足跡を残さないという意味では、川を通るルートのほうが安全だった。シャルロットは氷のように冷たい水に足を踏み入れる。ぶかぶかのブーツがしだいに水を含み、まもなく服が水浸しになった。唸る風が凍える体を鞭打つ。


氷水の中を数時間歩いていくと、壮大な滝の下にたどり着いた。ここで行き止まりだ。


頭上に台地が見えた。川と滝口の中間くらいの地点に、それはある。登るのは骨が折れるだろうが、決して不可能ではない。あの台地にたどり着くことができれば、追手の村人がきても、上からその位置を確認できる。何週間ぶりかにぐっすり眠れるだろう。


シャルロットが、自分のスカーフに包まれたヴィクトルを見下ろすと、とても白い顔をしていた。二人とも休息が必要だ。


シャルロットは滝を囲む岩肌を観察し、聳え立つ岩々に握れるところや、掴める、ところはないかを確認した。そしてヴィクトルを包んでいるスカーフをきつく締め、彼を定位置に固定する。


シャルロットは崖に手を伸ばすと、岩肌を掴み、片足を上げる。つづけてもう片一方の足も上げる。最初に腕に疲れがきた。右足を突出した岩に乗せると、体重をそちらに乗せ、筋肉を弛緩させた。だが、ぶかぶかのブーツが滑り落ちて頭が露出してしまう。腕の痛みを無視して産にしがみつくと、岩をしっかり踏みしめ、なんとかブーツをはき直そうと試みた。しかしその圧力でひびが入り、岩が沈む。


次の瞬間、シャルロットの右足の下には、空気以外何もなくなった。岩は崖から崩れ落ち、ブーツともども川の中に落下した。


シャルロットは腕を振るわせながら、その場を動けずにいた。指が一本一本、岩から滑り落ちていく。もうまもなく、彼女もさっきの岩と同じように落ちてしまうのだろう。死に向かって真っ逆さまだ。

シャルロットは呼吸が不規則になり、これで終わりなのかと考えた。


必ず助けると、ヴィクトルに約束したのに。いつか二人で自由になろうと。なのに、これが自分の精一杯なのか?ここから落ちて死ぬという、残酷な結末を迎えるのか?


いいや、彼女はヴィクトルに約束したのだ。彼を救ってみせると。


前に、ママンを助けたように?

シャルロットはチクチク痛む目を閉じた。

岩に引っかけている最後の指が滑り落ちそうになっている。

 

 

永遠に一緒「記憶:6905」

シャルロットは肩に、何か冷たい物が当たっているのを感じた。目を開けると、そこにヴィクトルの手があった。これは二人の合図だ。何か伝えたいことがある。時、ヴィクトルはシャルロットの肩を叩く。そしてヴィクトルに聞いてほしい話がある時は、シャルロットがヴィクトルの手を握る。だが、ヴィクトルは今、衰弱していて動けないはずだ。足元の岩が崩れた時に、体勢が変わったのだろうか?それとも...ヴィクトルもシャルロットと同じように、怯えているのかもしれない。シャルロットに救ってくれるよう、懇願しているのかもしれなかった。


シャルロットはヒリヒリと痛む腕を無視して、深く息を吸い込む。上を見ると、右のほうにもう一つ、大きな岩があるのが見えた。位置は先程より少し高い。飛びつけば届く高さではあるが、一歩間違えればそのまま川に墜落し、石に頭を叩きつけられることになるだろう。


心臓が激しく脈打っていたが、今なら体が動く。ヴィクトルが自分を必要としているのだから。ヴィクトルを助けるためなら、シャルロットは何だってするつもりだ。


岩肌に爪を喰い込ませ、全力で引っ張ってから、シャルロットは跳んだ。体が空中を舞った瞬間、心臓がどこかへ落ちる感覚がした。ほどなくして、シャルロットの右足がより高みにある岩に着地した。だが、その瞬間、足元で岩が動いたのもわかった。恐怖におののきながらも、シャルロットは自分が落ちて行くのを感じるーそれもゆっくりと。必死に岩肌にしがみつきながら、腕を全方向に動かす。すでに擦れて痛かった腕が鋭い岩で切れることになど、かまっていられなかった。滑り落ちながら、シャルロットは目を閉じる...すると、右腕が掴めるものに当たり、そこで落下に歯止めがかかった。


その部分を握りしめると、右足が固い物に乗せられていることに気づき、慎重にそちらへと体重を移動させていく。激しい耳鳴りがするなか、全身をギザギザの崖の縁に押しつけていた。


肩越しにヴィクトルの様子を確認する。シャルロットのスカーフに抱かれて、安全な状態を保っている。


シャルロットは歯を食いしばり、上を見た。台地の端との距離は、1トワーズほど。大丈夫だ、やれる。


シャルロットは左腕で掴めるところを探し当てると、それを引っ張った。片足を上げてから、もう片方の足も、同じように引き上げる。


永遠とも思える長い時間、ひたすらそれを繰り返す。


上へ上へと登り、やがて台地の端に無事全身を引き上げた。

永遠に一緒「記憶:6906」

シャルロットは台地の上に倒れ込んだ。ここまで登ってくる間、一瞬だけ、もう終わりだと考えたことがあった。死に対する恐怖は、何も恥じるようなことではない。だが、問題はそれ以外にある。死を予感したあの瞬間、束の間の安堵を覚えてしまった。そのことにシャルロットは魔女狩りに対する以上の恐怖を覚える。黒マントたちよりも、そのことのほうが怖かった。何故なら、それはヴィクトルへの裏切りを意味するからだ。あの瞬間、シャルロットはヴィクトルを見捨てたのだ。よくもそんな臆病なことが・・自分勝手なことができたものだと思う。


シャルロットはヴィクトルの頬に手を添える。氷のように冷たい。まさか、もう死んでいるのか?いや。そんなことはシャルロットには到底、受け入れられなかった。ヴィクトルを失うことは、墓穴に横たわり、土を被せられるのを待つことに等しい。ヴィクトルはシャルロットであり、シャルロットはヴィクトル。彼らは二人で一つだ。


シャルロットはヴィクトルの青白い頬を撫でた。いつか、ここから遠く離れたところへ連れて行ってあげる。そこなら、私たちはずっと安全に暮らしていける。


暗い霧がシャルロットの足元に巻きつき、彼女を眠りへといざなう・・・シャルロットはそのまま目を閉じた。

永遠に一緒「記憶:6907」

シャルロットは目を開けると、ゆっくりと身を起こす・・気を失っていたのだろうか?景色を見るより先に、シャルロットはヴィクトルに視線を落とした。どうやら、眠っているようだ。それとも、まさか...いや大丈夫。シャルロットの日には、ヴィクトルの頬がいくらか色づいているように見える。ヴィクトルはきっと良くなる。


シャルロットは立ち上がると、辺りの様子を確認した。目の前には常緑樹の森が、あり、後方には...そこに広がる景色を見て、シャルロットは息を飲む。背の高い松の木々が、西の海岸線に向かって広がっているのだ。暗色の波が縦長のほろい桟橋に打ちつけ、港からは船が西に向かっている。


海の見える景色を堪能しようと、シャルロットは柔らかい枝が集まっているところに腰を下ろした。日が暮れて行くところで、空が血のように赤く染まっている。シャルロットはスカーフを緩め、ヴィクトルにも船が見えるよう、顔の覆いを取ってやった。シャルロットは自分の手を、ヴィクトルの手へと伸ばし力強く、握った。それはとても冷たく、そして弱々しい。


シャルロットは泣きそうになるのを堪えた。大丈夫、何も問題ない。ヴィクトルはここまでの道程で弱ってしまっているだけ。まだ生きてる。こうして私と一緒にいる。今夜、しっかり休みさえすれば、ヴィクトルは元気になる。


眼下では、大きな船が気に包まれた水平線へと旅立っている。遥か西を目指し、て。それは、母に聞かされた夢を思い出させた。シャルロットは黒マントたちにひどい目に遭わされている時、いつも母の言葉に経っていた。正直な話、シャルロットは船で西を目指すという母の夢を、信じたことはなかった。美しい希望を掲げただけの現実逃避だと。だが、いよいよそれを信じるべき時がきた。新たな人生を手に入れるために、新たな夢を掴む時がきたのだ。


シャルロットは被っていた帽子を取って、ヴィクトルの手に巻いてやった。水平線の向こうに何があるか知ってる?かつてママンから聞いたことがあるわ。ママンは病気になる前に、その場所を夢見ていた。海の向こうには、別の世界があるんだって。そこではキレイな川が流れていて、木から甘い蜜が垂れ落ちてくるの。私たちが自由に暮らせる、こことはまったく違う世界が広がっているのよ。この下にある、大きな船が見える?


返事はない。ヴィクトルは夢を言葉にするのが苦手なのかもしれない。中には、口にしたら壊れてしまいそうな夢というのもあるのだろう。ただ、シャルロットの夢は違う。


シャルロットはヴィクトルの用についた雨の雫を払ってやった。きっと何もかもうまく行くからね、ヴィクトル。あんたはただ、私と旅することを考えていれば、いい。いつか船で一緒に、ここから遠く離れたところへ行くのよ。綿でできたベッドを空中に吊るして、そこに寝るの。波が打ちつけるたびに、ベッドが左右に揺れて、私たちを眠りにつかせてくれる。数週間後には陸につくわ。そうした!ら、小川のそばにある小さな家を探すの。朝は黄金色の作物が成る畑で働いて。毎日太陽を浴びて、毎日お腹がいっぱいの状態で月を見ながら寝るの。そこには、嵐もこないし、私たちを火あぶりにする奴らもいない。二度と化け物たちに痛めつけられたりしないわ。一緒に、自由に生きるの。毎日が普通すぎて、冒険した頃が懐かしくなるくらい。いつか、この景色すら懐かしくなる日がくるかもしれない....約束する。いつか、私たちは自由を手に入れる。そして、私たちの居場所を見つけるのよ。私たち、三人で。


シャルロットはそこで黙り込む。無理だ、シャルロットたちは二度と、「三人」にはなれない。母はすでにこの世を去っているのだから。シャルロットはヴィクトルのほうに視線を落とす。衰弱しすぎていて、胸が上下しているかどうかも確認できない。


違う、ヴィクトルは弱っているだけ。休息を必要としているだけ。自分の中に湧き起こる疑念にかまっている暇など、シャルロットにはなかった。それに囚われてしまったら、今度は自分が死ぬ番だ。そうなれば、三人全員が負けたことになる。


シャルロットは目を閉じた。野原を走る光景が、青々とした葉が足を掠めていく、感覚が、現実のように思えた。腕の中ではヴィクトルが笑っている。二人は今、ここから遠く離れた場所にいる...

 

 

永遠に一緒「記憶:6908」

冷たい風が腹を空かせた獣のような唸り声を上げながら、産に吹きつける。小鳥のさえずりに促され、シャルロットが目を開けると、体の節々が痛みで悲鳴を上げていた。隣には砂が詰まっているような感じがするし、こめかみもズキズキす。る。とにかく具合が悪い。


シャルロットがヴィクトルのほうに視線を落とすと、一晩経ってさらに青白さを増したように見えた。シャルロットは拳を握る。母親にさえ無理だったのに、どうして自分に弟の面倒が見きれるものか。母の不在に、シャルロットは深い喪失感を覚えた。


頭上を見上げるとさえずる小鳥の位置を確認できた。小さなスズメだ。シャルロットの脳裏に、過去の記憶が蘇る。柔らかい羽毛、鋭い爪、手の中のかよわい首の感触。シャルロットは額から血をにじませ、スズメの首をへし折るまで黒マントたちに暴力を振るわれつづけた。奴らはシャルロットにひどい、恐ろしいことを強制した。だが、シャルロットは決して、非道な人間ではない。


それなのに、奴らはシャルロットを化け物として扱った。何故か?ヴィクトルがシャルロットの一部であり、シャルロットもまたヴィクトルの一部だからだ。彼女たちは二人で一つであり、血と骨によって結ばれている。痛みを感じた時は二人分の涙を流し、また嬉しい時の笑い声も二倍だった。そして絶望的な状況にあっても、彼女たちは決して一人ではない。


何があっても、永遠に一緒だ。同じことを言える者が他にいるだろうか?だが一方で、この恵みには重い代償もある。


彼女たちは血と骨を共有している。片方が死んでしまった時、一体何が残るのだろうか?

永遠に一緒「記憶:6909」

澄んだ夜空に、星が点々と浮かんでいるのが見える。あまりにも体調が悪すぎて、シャルロットは動けずにいた。きっと、ヴィクトルの症状はもっとひどいはずだ。それとも彼は...


森のほうから獣の低い唸り声が聞こえてくる。前方の様子はあまりよく見えなかったが、シャルロットはうなじの毛が逆立つのを感じた。暗闇の中から、何か、がこちらを見ている。


シャルロットはヴィクトルの手を掴むと、気を落ち着かせた。


震える手に大きな枝を握り、音がするほうへと歩を進める。狼は、村から遠く離れたところで狩りをするものだ。遠くまで旅をつづければ、その分だけ遭遇する。確率が上がる。


暗闇を見回していると、やがてシャルロットは光る雪の上に赤い跡がついていることに気づく。さらに奥に進むと、雪の中に横たわる大きな狼に出くわした。灰色の毛皮が血で汚れており、首には矢が刺さっている。そのまま野垂れ死ぬと踏んで、狩人たちが放置したのだろう。


その暗色の瞳がシャルロットを捕らえると、彼は唸り声を上げた。だが、体を動かせるほどの力は、もう残っていない様子だ。次の瞬間、甲高い鳴き声が聞こえてくる。狼の足元には、白くて小さな子が隠れていた。死にかけの狼と、物悲しい鳴き声をあげる赤ん坊が、生き延びようと必死に戦っている。


シャルロットは何をなすべきかわかっていた。わかってしまうことに、自己嫌悪を覚えた。


シャルロットが身を乗り出して小さな子狼を掴むと、それはシャルロットの指に噛みついてきた。だが、牙が小さすぎて痛みらしい痛みを感じさせない。狼は唸り声を上げながら、なんとか立ち上がろうとするも、自身の重みに脚が耐えられ、ず、雪の中に倒れ込んでしまう。


シャルロットは死にかけの狼の哀れな鳴き声を無視して、雪に穴を掘り始める。子狼が自力で這い上がるには、深すぎるものだ。自分の母親が激しい苦痛に悲鳴」を上げていた時も、誰かが母の苦しみを終えてくれたらと願ったものだ。


シャルロットは手を震わせながら、子狼の母親に近づく。その手で矢を握りしめると、狼は唸り声を上げた。シャルロットがすばやい動きでもって矢を引き抜くと、彼はその苦痛に鳴き、その場に倒れ込んだ。それに呼応するように子狼も鳴き、一生懸命穴の中で雪を掻きだす。シャルロットは枝を振り回しながら、子狼に向かって叫ぶ。行って!行けったら!


子狼は弱々しく唸え...夜の闇の中に走って消えて行く。


涙と顔に浴びた返り血が混ざって、シャルロットの視界が滲む。自分はこの狩人たちと一緒なのだろうか?あの狼はすでに死にかけていた。不要な痛みを与えてしまったのは、かえって残酷だった。だが、あの子狼が近くに留まったままだったら、間違いなく狩人たちの罠にかかっていたことだろう。そして母親を殺した人間らのそばで、囚われの身として生きるはめになっていたはずだ。


否、シャルロットは二匹に情けをかけたのだ。心無い人間たちの手に落ちるのが、どういうことかを知っているからこそ。

永遠に一緒「記憶:6910」

シャルロットは涙が止まらなかった。狼を殺してしまった自責の念から、胸の中で苦しみが増し、とうとう抑えられなくなってしまったのだ。二年前までのシャ」ルロットなら、生き物を手にかけることなど、絶対にできなかっただろう。けれど無実の存在が、耐えがたい苦しみの中、死に向かうのを黙って見ていることは、人として正しいのだろうか?できることなら、その場を立ち去りたかった。だが、それではいけないことを、シャルロットは知っていた。


苦しむ母親の姿を見て、シャルロットは学んだ。母が魔女狩りで捕まった時、自分にできることは何もないと言い聞かせた。だがこれは、決して全面的に正しいとは言えなかった。


「狩人」たちは教会の裏にある木の小屋で眠っていた。森のそばに立つその小屋|はとても古く、そして乾燥していた。ちょっとした火の粉で、大きな火事に発展しただろう。なのに、シャルロットは何もせず、ただ裁判の日を待った。そして、他ならぬ自分の母親が、焼け死ぬ姿を見ることになった。


無実の者が苦しむことを回避できなかった機会は、それ以外にもあった。そのたびに、母の言葉がシャルロットを踏みとどまらせた。誰かを憎むほど堕ちてはいけない。最後には誰よりも、そんな自分を憎むようになってしまうからと。けれと、そのママンはもういない。シャルロットは母が激しい苦痛に叫びながら、炎」に顔を溶かされていくところを見た。


今のシャルロットにはもう、ヴィクトルしかいない。シャルロットはヴィクトルに視線を落とす。頬が青い。もう、どうにもならないところまで来ているのかもしれない。


もしかしたら、シャルロット自身も。


いいや、ヴィクトルはきっと良くなる。シャルロットとヴィクトルは二人で一つ、血と骨で結ばれているのだから。


ヴィクトルが自分を置いていくなんて、絶対にあり得ない。

 

 

永遠に一緒「記憶:6911」

明け方になって、シャルロットは大きな音で目が覚めた。足元には灰の山ができていて、火はとうの昔に消えたようだった。


後方で何かが割れる音がした。


背の高い男が並木から姿を現す。シャルロットはその男に見覚えがある一市場でシャルロットの鞄を引き剥がした村人た。男が腕を上げると、弓が見える。


相手が弓を引いたのを見て、シャルロットは心臓が止まる思いがした。よろめきながら立ち上がると、すばやく森の中へと逃げ込む。何本かの矢が近くに落ちるなか、盛り上がった木の根に置かないよう、シャルロットは地面から決して目を離さずにいる。


しかし、激しい動揺で進路を確認しきれず、左足が切り株に着地してしまう。足首を不自然な方向に捻ってしまったシャルロットは、地面に崩れ落ちる。一本の矢が顔のすぐ横を飛び、頬をかすった。


シャルロットは悲鳴を押し殺し、今一度立ち上がる。足首が痛みで激しく脈打っている。やがて、鋭いものが脚に刺さった感覚がして、全てが減速する。膝をついたシャルロットは、ふくらはぎに矢が刺さっていることに気づく。体中を電気が走ったような激痛に、シャルロットは叫び声を上げる。


荒い呼吸をしながら、シャルロットはヴィクトルに視線を落とす。まるで死を受け入れたかのように、目が虚ろだ。


約束したのに...

永遠に一緒「記憶:6912」

シャルロットは歯を食いしばって、負傷した脚を引きずりながら前進する。拷問に等しい痛みだが、かまっている暇はない。ヴィクトルが自分を必要としているのだ。


頭上を見上げると、小さな丘の上にあるオークの大木が目に留まった。あそこなら隠れられるかもしれない。上り坂を一歩進むたびに引き裂かれるような、あるいは焼けるような痛みが、際限なく全身を襲った。シャルロットは舌を噛んで悲鳴を押し殺した。口の中で血の味がする。


てっぺんまでたどり着くと、シャルロットは息を整えるため、オークの木の後ろ。に身を隠した。だが視界がかすんで、枯れ葉の山に倒れ込んでしまう。皮膚の下に深く刺さった矢の先端が、組織を引き裂く。シャルロットは、焼けるように痛む傷口に手のひらを押し当てる。出血が多すぎる。


耳鳴りが収まらない。どこにも逃げ場はない。突破口も見つけられない。船で新世界を目指すなど、もはや不可能な夢だった。


後ろで枝が砕ける音がする。


シャルロットはヴィクトルの頬を指でた。彼女たちは二人で一つであり、血と骨で結ばれている。ヴィクトルはシャルロットで、シャルロットはヴィクトル。片一方が死んでしまったら、一体何が残る?


痛みに呻きながら、シャルロットは姿勢を正して座る。何ものにも、二人を引き裂くことはできない。死でさえも。


彼らは、永遠に一緒なのだから。

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